2025/04/24 更新

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サクラモト カオリ
櫻本 香織
所属
文学学術院 文化構想学部
職名
助教
 

現在担当している科目

 

特定課題制度(学内資金)

  • 『南方録』と中国思想

    2024年  

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    『南方録』は、江戸元禄期に立花実山が千利休に仮託して編纂した、茶の湯の理論書である。その構成は、「覚書」「会」「棚」「書院」「台子」「墨引」「滅後」の七巻からなる。「台子」では、名物道具の置き合わせや飾り方について、「カネワリ」という規式によって図像化し、説明している。それは、格式の高い点前道具の一つである台子の上板中央に縦の線を引いて陽の「カネ」とし、そこから左右に引いた等分の線を、陰と陽の「カネ」として、その上に道具の配置をするものである。また、「墨引」冒頭部では、「カネワリ」について、天地順行や陰陽の理論に基づくと述べられている。先学の研究によれば、この「カネワリ」の根拠は、中国思想の陰陽五行説に拠っているという。また、宮本武蔵『五輪書』に「かね」の語があることから、「カネワリ」の典拠は『五輪書』にあると指摘されてきた。しかし、「カネワリ」が何に基づいているのか、踏み込んだ研究は行われていない。本研究では、『南方録』独自の理論である「カネワリ」について、その理論の背景を検討した。まず、近世における「かね」の用例を精査し、「かね」の語を『五輪書』だけでなく、江戸前期の吉田光由の著書『新編塵劫記』、実山の儒学の師である貝原益軒の『養生訓』にあることを確認した。次に、『南方録』における「カネワリ」についての陰陽の理論と、貝原益軒の著作にみえる陰陽論とを比較した。その結果、貝原益軒の著作『養生訓』『自娯集』『大疑録』における春夏・秋冬の順行や、天地間の二気論が、『南方録』「墨引」で述べられる陰陽論に影響を与えていると明らかにした。これらの考察から、『南方録』における「カネワリ」の「かね」の語は、宮本武蔵『五輪書』に由来する可能性は低いと考えられる。また『南方録』における「カネワリ」の陰陽五行説の背景には、貝原益軒の著作にみえる陰陽論からの影響があると結論づけた。