Internal Special Research Projects
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2024
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本研究は、近世禅書画の研究を目的とし、特に白隠慧鶴の書画を中心に、その伝来や制作背景を考察することで、作品の意義を明らかにすることを目指した。本助成の成果の一環としてまとめた論文「白隠慧鶴筆墨蹟『紅葉』について―伝来と制作年に関する考察―」では、白隠の墨蹟の一つである「紅葉」に焦点を当て、その来歴と制作年を詳細に検討した。本研究では、まず「紅葉」の使用印や書風を整理し、その制作時期を60代から70代半ばと推測した。さらに、宝暦7年(1757)、73歳の白隠が信州を巡錫した際に制作された作品のみを集めた昭和34年(1959)の展覧会に、本作が出品されていたことを示す資料を発見した。これにより、本作が信州巡錫時に制作された可能性が高いことが明らかとなった。これらの検討を通じて、本作の制作背景から現存に至るまでの経緯を明確にすることができた。さらに、近世禅書画における本作の位置付けを探るため、類似する様式を持つ墨蹟との比較分析も行った。その結果、本作は中世から近世にかけての禅僧による置字様式を持つ墨蹟のなかでも、仮名交じりの歌を置字で揮毫している点で特異な作品であることが確認された。本研究の成果として、白隠作品の美術史的評価にとどまらず、歴史的意義や思想的背景についての理解を深めることができた点が挙げられる。特に、同時期に制作された具体的な作品を受容者ごとに比較検討することで、作品の受容者によって画風や書風が変えられているという白隠の制作姿勢についても提示することができた。今後の課題としては、他の白隠作品との比較をさらに進め、伝来や制作年の精査、書風の変遷に関して体系的な分析を行う必要が挙げられる。また、白隠以外の近世禅僧による書画との比較を通じて、当時の禅書画の位置付けをより広い視野で考察する必要がある。本研究助成によって得られた知見を基に、今後も近世禅書画の研究を深化させていきたい。