昨年度はキャンセル料を含んだ最適契約モデルに関する考察を主に行った。事業者の最適キャンセル料設定を考えるにあたり、以下の2点が重要となる。① 消費者は購入段階では商品の品質を完全に判別できない、② 契約の事後的な取消に商品の摩耗や返送のための送料等の取消費用がかかる。こうした取消費用は、消費者の負担割合が小さくなると、購入してみて品質が低かったらすぐ取消をする、という消費者の過剰な取消を招き、社会的に不必要な取消費用の発生と、事業者の円滑な取引の阻害が発生する可能性がある。一方で、消費者の負担割合の増加は消費者側からの取消を抑制してしまう。
こうした設定の上で、消費者の情報収集を組み込んだモデルを考察している。具体的には、消費者が一定の費用を支払うことで商品の品質に関する情報を集めることが出来るケースの想定である。現実社会においても、我々はインターネット販売や通信販売を利用する際に、サイトに表示されている口コミや販売業者の情報について事前に調べることがある。こうした消費者の情報収集は、望ましくない取引を事前に防ぐ意味でも重要である。また、消費者の情報収集の程度は、もし取引をキャンセルした場合の費用負担に大きく依存しており、事業者の設定するキャンセル料に大きく左右されることになる。そのため、事業者のキャンセル料設定と、その下での消費者の情報収集構造について理論分析を行っている。
モデルの途中結果については、研究分担者である河村が2022年1月にWINPEC Microeconomics Workshopにて報告しており、現在受け取ったフィードバックを基にモデルの再構築を進めている。

２０１９年度は国内ワークショプは予定通り開催できたものの、当該年度に計画されていた２件の海外研究者招聘によるワークショップ開催は、１件は招聘研究者の家庭の事情により、もう１件は新型コロナウィルスの影響により中止となり、更に２０２０年度においても旅行制限により招聘を実施することができなかった。そこで２０２１年度から海外在住の研究者によるオンライン研究会を定期開催し、合わせてインフォーマルな研究交流の機会を設けた。その結果、研究代表者や研究分担者の研究に資する、多くのフィードバックを得ることができた。
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こうしたフィードバックをもとに、研究代表者はメディアとオンラインテクノロジーの動学チープトーク分析を深化させ、新たな厚生分析を加えることで、オンラインニュースへのアクセスのコストが（ネットニュースの充実等により）低くなるほど、ニュース記事の情報の信頼性が低下し、読者の厚生が低下する可能性を示した。また、逐次的コンサルテーションのチープトークモデルに取り組み、情報の受け手が複数の専門家を逐次的に訪れる際には、その訪問順序をランダムにすることにコミットすることにより、専門家同士の利害による情報の操作を抑え、結果として情報の受け手はより多くの情報を得られることを示した。
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この間の研究分担者による研究成果としては、コロナウイルスのような特異な現象が発生した際に政府が情報を秘匿する要因の研究、組織におけるメンバーの退出と発言の相互作用についての研究、インフォーマルな権限委譲（エンパワメント）が部下からの情報伝達を阻害する状況についての研究、チープトークゲームにおいて金銭授受の可能性があれば支払条件等にコミットでき「なくても」均衡における情報伝達量を増やすことを示す研究、が挙げられる。

Thanks to the Grant, the PI has been able to continue ongoing research with hid collaborators based in Europe smoothly, and newly develop his own researchers network in Japan, as soon as he moved to Tokyo. The research project has primarily focused on information transmission and aggregation, within the context of strategic behaviour in collective decision making. In particular, the PI has published a paper on voting experiment where the presence of both private and public information leads to significant inefficiency; and an empirical paper on strategic communication by a central bank using text analysis and a game theoretic model. The PI also completed papers and gave presentations on the most efficient strategy profile in a standard voting game; game theoretic analysis of the accuracy of media reports on the internet; and a few other theoretical and empirical projects.

We contributed to the development of basic and applied research in the field of contract theory and organizational economics (2016 Nobel Prize in Economic Sciences was awarded to two contributors in this field) and the formation of inter-university research network at the level of the international standard, through the following workshops, conferences, and academic presentations: (1) Regular forty workshops (CTW) during the five years, including sixteen talks by researchers from abroad; (2) Summer conferences held every August; (3) International conferences joint with Taiwan, Hong Kong, and other Asian and Pacific nations held every December; (4) Workshops (CTWE) held in Tokyo, including twelve talks by researchers from abroad; and (5) Forty-seven academic presentations and interactions at domestic and international conferences and thirty-one academic articles.

引き続き共同研究者との頻繁なやり取りを通して、基礎モデルの特に３つのセットアップについて分析を進め、１つについて均衡および比較静学の導出を行った。残りの２つにセットアップについては、計算・証明作業を続行中である。