2024/03/29 更新

写真a

タケナカ ヒロコ
竹中 宏子
所属
人間科学学術院 人間科学部
職名
教授
学位
博士 ( マドリッド大学(UCM) )

委員歴

  • 2013年01月
    -
     

    日本民俗学会国際交流特別委員会委員、2013年1月~

  • 2006年
    -
     

    早稲田文化人類学会  理事

所属学協会

  •  
     
     

    ガリシア文化・社会人類学会

  •  
     
     

    日本生活学会

  •  
     
     

    日本文化人類学会

  •  
     
     

    早稲田文化人類学会

研究分野

  • 文化人類学、民俗学

研究キーワード

  • ヨーロッパ人類学、都市人類学、スペイン地域研究、文化遺産研究

受賞

  • 第5回アントニオ・デュラン・グディオル賞

    1999年02月  

メディア報道

  • バルセロナのローカルラジオ番組 "Xerrem d'arreu" に出演。インタヴューを受ける

    テレビ・ラジオ番組

    Sants 3 Radio  

    2023年11月

 

論文

  • 人でつくられる「人間の塔」に関する構造物としての工学的分析

    佐野友紀, 村野良太, 加藤麻樹, 竹中宏子

    人間科学研究   34 ( 1 ) 1 - 12  2021年03月  [査読有り]

  • 人間の塔チーム「サンツ」における十全的参加者のあり方と位置付け―潜在的成員に着目して―

    竹中宏子

    生活学論叢   38   44 - 55  2020年11月  [査読有り]

    担当区分:筆頭著者

    DOI

  • カタルーニャの人間の塔における身体、感情、つながり

    ジョセップ・マルティ, 翻訳・竹中宏子

    人間科学研究   33 ( 1 ) 47 - 59  2020年03月  [査読有り]

  • カタルーニャの人間の塔(Castells)を「支える」スタッフの活動と勧誘のシステムの民族誌―チーム「サンツ」(Castellers de Sants)を事例に―

    竹中宏子

    人間科学研究   33 ( 1 ) 61 - 71  2020年03月  [査読有り]

    担当区分:筆頭著者

  • スペインの民俗文化研究―人類学史における民俗学の位置づけ

    竹中宏子

    文化人類学研究   15   33 - 43  2014年12月  [招待有り]

    担当区分:筆頭著者

  • Individuals as Actors of Social Change: A Case Study of the Revitalisation of El Camino de Fisterra-Muxi'a and Costa da Morte in Galicia, Spain

    TAKENAKA, Hiroko

    Senri Ethnological Studies   81   131 - 148  2013年

  • Antropologi'a de los albergues del Camino de Santiago

    Takenaka, H

    Acta del VI i VII Congreso del Camino de Santiago     97 - 119  2011年

  • 祭りの意味とライフステージ —「演者」「観衆」役割の流動性に着目して

    竹中宏子

    生活学論叢   10   84 - 96  2005年10月

  • 「遺産」を担う、もう一つの主体像—「サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路」に関わるボランタリー・アソシエーションの事例から

    竹中宏子

    白山人類学   8   69 - 89  2005年03月

  • 生きられる都市空間の近代—スペイン・ウエスカ市における「表象の空間」に関する人類学的考察から

    竹中宏子

    お茶の水地理   45   23 - 47  2005年03月

  • <Espacios> creados en el espacio: Un análisis del ámbito ciudadano de la Huesca actual.

    Takenaka, H

    Acta del IX Congreso de la Federación de Asociaciones de Antropología del Estado Español   CD-Rom版,頁無し  2003年09月

▼全件表示

書籍等出版物

  • 響きあうフィールド、躍動する世界

    竹中宏子( 担当: 分担執筆,  担当範囲: スペイン・ガリシアの村祭り:文化遺産化の過程におけるつながりの生成)

    刀水書房  2020年04月

  • 文明史のなかの文化遺産

    竹中宏子( 担当: 単著,  担当範囲: 遺産を担う変わり者―スペイン・ガリシアの古城をめぐるM氏とアソシエーション)

    臨川書店  2017年06月

  • ヨーロッパ人類学の視座—ソシアルなるものを問い直す(竹中担当分pp.161-189, 「個人が開くソシアルの地平—スペインガリシアの地域文化コーディネーターの事例から」)

    森明子編( 担当: 分担執筆)

    世界思想社  2014年04月

  • ホスピタリティ入門

    青木義英, 神田孝治, 吉田道代編著, 「サンティアゴ巡礼におけるホスピタリティ

    新曜社  2013年04月

  • 人類学ワークブック

    小林孝之, 出口雅敏編, 集う, 人間関係の中で生きる

    新泉社  2010年07月

  • エコ・イマジネール

    嶋内博愛, 出口雅敏, 村田敦郎編, 参加者の視点から見た聖人祭, 祭りの経験構造

    言叢社  2007年06月

  • 現代都市伝承論 —民俗の発見 (竹中担当分pp.255-284, 「伝承される聖人伝説 —スペイン・ウエスカにおける守護聖人の現在性—」)

    現代伝承論研究会編

    岩田書院  2005年10月

  • La fiesta en la ciudad: antropologi'a de la Fiesta de San Lorenzo en Huesca

    Takenaka, Hiroko

    Exmo. Ayuntamiento de Huesca  2005年

▼全件表示

講演・口頭発表等

  • 民俗芸能とインクルーシブな社会:女性のみでつくられるカタルーニャの「人間の塔」(Castells)

    竹中宏子

    日本民俗学会第75回年会  

    発表年月: 2023年10月

    開催年月:
    2023年10月
     
     
  • カタルーニャの人間の塔完成に関するエスノグラフィ:塔を支える身体的な技術と責任感や信頼感

    竹中宏子

    日本文化人類学会第54回研究大会  

    発表年月: 2020年05月

    開催年月:
    2020年05月
     
     
  • Self-analysis of anthropological practices in Spain: towards anthropology on an equal forum

    International Union of Anthropological and Ethnological Studies 2014 (15-18 May 2014)  

    発表年月: 2014年05月

共同研究・競争的資金等の研究課題

  • カタルーニャの人間の塔に関する人類学的な文化遺産研究

    研究期間:

    2018年04月
    -
    2021年03月
     

     概要を見る

    平成31年度にはバルセロナにおいて2回のフィールドワークを行った。そこでは前年度に課題としていた人間の塔の身体性と人間の塔を建てるために必要な責任感や信頼感の内実を考察するため、参与観察と聞き取り調査を行った。この過程で、前年度に凡そ把握できていると考えていた塔の仕組みや特徴について、外から見た構造的な観点ではなく個々の身体性から、人を部材とした塔が建つ技術を把握することができた。特に、練習のやりとりを通して、人間の塔で伝えられる技術がいわゆる「技言語」を用いず、どちらかというとスポーツに類似した練習方法で技術を学んでいる様態が見て取れた。現時点でのフィールド調査をまとめながら、チームの一員となる身体性について考察した。鍵となる要素の一つは正式なメンバーの証である襟付きの「シャツ」を獲得する過程である(準メンバーは「Tシャツ」)。新参者はその獲得のためにチームにコミットし、獲得プロセスを通じてチームの成員としての身体性を身に着けていく様態を考察できた。これは正統的周辺参加(LPP)の過程と見なすことができるだろう。しかし、本年度にまとめた発表論文では対象チームのボランタリー・アソシエーションとしての分析に止め、LPP論を基にした分析は次の課題とした。技術のみならずボランタリー・アソシエーションとしての側面、すなわち社会的側面に着目することにより、チームにアイデンティティを抱く仕掛けが用意されていること、そしてチーム自体が上下関係を極力排除し、親和的な関係性を基にした緩やかなシステムを維持している様態を明らかにした。それは高い塔を建てる鍵となる責任感や信頼感の基となるので、この視点から引き続き細かく見ていくことを課題とした。フィールドワークを重ねることにより、チームでの信頼も得られつつあり、練習においても重要なポジションに近づくことができ、したがってより内部から人間の塔という現象を体験・観察でき、昨年度課題とした身体性についてある程度考察することができたからである。また、同じく昨年度課題としていたボランタリー・アソシエーションとしての組織分析も行うことができたからである。次年度は主に次の点について文献調査に力を入れて研究を進めたい。1) 人間の塔をカタルーニャ民俗文化の一つとして考察(サルダーナとの比較)、2) カタルーニャ民俗文化の政治性、3) 人間の塔がUNESCOの世界無形文化遺産に登録された過程とカタルーニャ人間の塔機構(CCCC)との関係。3)については、聞き取り調査も必要とすることが予測されるが、新型コロナウィルス拡大の影響で渡航が困難になっている状況において研究を進める新たな方法を考える必要があるだろう。現在、Web会議システムなどを使って、現地の状況の把握に努めているが、渡航制限という状況が改善されれば、引き続きバルセロナで、4) 人間の塔における身体性獲得の過程の参与観察に務める所存である。また、日本に帰国した元・人間の塔チームのメンバーにインタヴュー調査をする可能性も考えている

  • ガリシアの農村を対象とした共同体の人類学的研究:非同一性に根ざした共同性の探究

    日本学術振興会  科学研究費助成事業

    研究期間:

    2014年04月
    -
    2017年03月
     

    竹中 宏子

     概要を見る

    本研究は外部に対して極めて閉鎖的にみえるスペイン・ガリシアの農村共同体について、祭り「私は村の出身(Son d’Aldea)」と「外部」の視点をもつその主催者たちに着目しながら、彼らと既存の共同体との間につくられる共同性を考察したものである。人類学的な調査を通して、この祭りが経済効果を狙うだけのイベントとは異なり、「内」と「外」の直接的な接触と協力によって成る、開放的な祭りであることを捉えた。また主催者たちは、祭りの前後期間における一時的な住民であり、地域の象徴を創造する重要な意味を有していることを明らかにし、村と関係が薄い人々による新たな農村の共同性のあり方を考察した

  • ネットワークの人間科学:人・モノ・ネットワークのダイナミクスに関する広域システム科学的探究

    研究期間:

    2010年
    -
    2012年
     

  • 文化遺産の担い手に関する民族誌:アソシエーションの公共性に関する人類学的考察

    日本学術振興会  科学研究費助成事業

    研究期間:

    2007年
    -
    2010年
     

    竹中 宏子

     概要を見る

    本研究は、文化遺産の現実を、それを担う主体のアソシエーションとその会員の動きに関する民族誌として記述することを目的とし、アソシエーション・その会員である個人・文化遺産の間の関係について人類学的に考察を行い、文化遺産を担う主体の動きから創造される現代的な地域性と、地域住民の間に構築される共同性を議論している。扱う事例は、サンティアゴ巡礼路とこれに関わり活動を展開するアソシエーションや個人で、調査地としてはスペイン国内であるが、主にガリシア(州)を対象とした

  • 多世代・多文化共生社会における社会・文化環境の構想(研究代表者:店田廣文)

    研究期間:

    2007年
    -
    2010年
     

  • ソシアル概念の再検討 —ヨーロッパ人類学の問いかけ(研究代表者:森明子)

    研究期間:

    2007年
    -
    2009年
     

  • 人文・自然景観の開発・保全と文化資源化に関する研究(研究代表者:青木隆浩)

    研究期間:

    2006年
    -
    2007年
     

▼全件表示

Misc

  • Individuals as Actors of Social Change: A Case Study of the Revitalisation of El Camino de Fisterra-Muxi'a and Costa da Morte in Galicia, Spain

    TAKENAKA, Hiroko

    Senri Ethnological Studies   81   131 - 148  2013年

  • Individuals as Actors of Social Change: A Case Study of the Revitalisation of El Camino de Fisterra-Muxi'a and Costa da Morte in Galicia, Spain

    TAKENAKA, Hiroko

    Senri Ethnological Studies   81   131 - 148  2013年

  • Antropologi'a de los albergues del Camino de Santiago

    Takenaka, H

    Acta del VI i VII Congreso del Camino de Santiago     97 - 119  2011年

  • Antropologi'a de los albergues del Camino de Santiago

    Takenaka, H

    Acta del VI i VII Congreso del Camino de Santiago     97 - 119  2011年

  • スペイン・ガリシアにおける移民の歴史と現在—ラテンアメリカとヨーロッパの狭間のガリシア

    竹中宏子

    人間科学研究   23 ( 2 ) 257 - 271  2010年09月  [査読有り]

  • フィステーラ=ムシーアの道」(サンティアゴ巡礼路)と「死の海岸」の遺産化に関わる人びと—地域文化コーディネーターの活動と役割—

    竹中宏子

    国立民俗歴史博物館研究報告集   156   163 - 184  2010年03月  [査読有り]

  • 祭りの意味とライフステージ —「演者」「観衆」役割の流動性に着目して

    竹中宏子

    生活学論叢   10   84 - 96  2005年10月

  • 「遺産」を担う、もう一つの主体像—「サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路」に関わるボランタリー・アソシエーションの事例から

    竹中宏子

    白山人類学   8   69 - 89  2005年03月  [査読有り]

  • 生きられる都市空間の近代—スペイン・ウエスカ市における「表象の空間」に関する人類学的考察から

    竹中宏子

    お茶の水地理   45   23 - 47  2005年03月  [査読有り]

  • <Espacios> creados en el espacio: Un análisis del ámbito ciudadano de la Huesca actual.

    Takenaka, H

    Acta del IX Congreso de la Federación de Asociaciones de Antropología del Estado Español   CD-Rom版,頁無し  2003年

  • <Espacios> creados en el espacio: Un análisis del ámbito ciudadano de la Huesca actual.

    Takenaka, H

    Acta del IX Congreso de la Federación de Asociaciones de Antropología del Estado Español   CD-Rom版,頁無し  2003年

▼全件表示

 

現在担当している科目

▼全件表示

 

社会貢献活動

  • Arago'n Radio

    Arago'n Radio 

    2013年03月
    -
     

     概要を見る

    ラジオ番組の生中継にて、研究対象である聖ロレンソ祭に関するインタヴューを受けた。

  • Arago'n Radio

    Arago'n Radio 

    2013年03月
    -
     

     概要を見る

    ラジオ番組の生中継にて、研究対象である聖ロレンソ祭に関するインタヴューを受けた。

特別研究期間制度(学内資金)

  • スペインにおける儀礼・祝祭研究と農村研究に関する文化人類学的な研究

    2015年09月
    -
    2016年09月

    スペイン   サラゴサ大学

他学部・他研究科等兼任情報

  • 理工学術院   創造理工学部

  • 附属機関・学校   グローバルエデュケーションセンター

  • 人間科学学術院   大学院人間科学研究科

特定課題制度(学内資金)

  • ジェンダーの視点から見た人間の塔に関する文化人類学的考察:女性のみでつくられる塔との比較から

    2022年  

     概要を見る

     本研究はカタルーニャの伝統文化である「人間の塔」を、女性の視点から再考するもので、文献調査と現地調査で進められた。文献調査から社会学的な女性メンバーの扱いや位置づけの歴史と現在を把握した。社会変化に伴い、カタルーニャ人間の塔機構(CCCC)および各チームの中で、女性の地位向上を促進する動きが始まっているが、聞き取り調査においては未だ問題が多い現状が明らかになった。本研究で主な対象チームとしたCastellers de Santsでは、カタルーニャで唯一、女性だけの塔を毎年建てていて、ジェンダー問題に関する窓口・委員会を設置し、総会でもオープンに議論し問題解決を図っている。ただし抜本的な意識の変革は難しく、普段のほんの些細な言葉にも、差別的な表現がはらんでいる事実が明らかになった。 本研究を通して、未だ女性のエンパワメント推進途中であるが、人間の塔というカタルーニャの伝統文化全体の方向性を考察することができた。

  • 「もの」の視点に着目した利尻島のコンブとウミネコに関する人類学的な民族誌

    2021年  

     概要を見る

     本研究は利尻島を代表する利尻コンブを文化遺産とみなし、コンブ漁業者と、コンブの天日干しの時期に島で繁殖するウミネコ、ウミネコを忌み嫌い駆除しようとする漁業者に対して、海鳥保護活動に賛同する人々(科学者)との絡み合い(entanglement)の民族誌を編むため、その一部について考察を行うものである。そこではユクスキュルの「環世界(Umwelt)」の概念を参考にしながら、異なる「世界」を生きる人やモノの絡み合いに着目する。 本研究は、利尻コンブの特徴などに関する文献・資料調査と利尻島での人類学的なフィールドワークの2本柱で進められた。そこからウミネコ・漁師・海鳥保護者の三者の立場がそれぞれの正当性を以て「生」を実践している現実が大枠で把握できた。

  • COVID-19感染拡大によるスペイン・カタルーニャの伝統文化「人間の塔」に関する災害人類学的研究

    2020年  

     概要を見る

    本研究は、感染症が流行する中、カタルーニャの伝統文化と認められている「人間の塔Castells」のチームが、どのように集団としての危機的状況に対応し、集団としての紐帯を維持しているのかについて考察することを目的としている。「人間の塔」とは、人間が密接・密集して重なり合い、10mにも及ぶ高さの塔をつくるという、人による造形文化である。当初予定していた文化人類学的なフィールドワークが実施不可能な中、本研究では、既にラポールが構築されているチーム「サンツCastellers de Sants」を対象に、独自のアプリやインスタグラムまたは遠隔テレビ会議システムを介したつながりの維持に傾ける努力を捉えた。それは、一見、塔を建てるという目的とは異なり二次的なものとも考え得るが、実はチームにとって最重要事項であり、こうした緊急時あるいは災害時に必要な要素である点を考察した。

  • 「人間の搭」(Castells)の担い手の身体性に着目した文化人類学的な研究

    2019年  

     概要を見る

      カタルーニャの伝統文化として理解される「人間の塔」は、人が肩の上に乗る形で積み上がり、高いものでは10mにも及ぶパフォーマンスである。理論的にはそれだけ高い塔を建てられるはずがなく、したがって「なぜ塔が建つのか」は問題となる。本研究では、身体性の獲得に着目しながら、人類学的なフィールドワークを基に、塔を成功させる要素を抽出することを目的としている。 2019年度行われた2回の現地調査を基に、技術的のみならず、人間の塔チームというアソシエーションの成員として社会的に獲得される身体性が塔の成功の鍵であることを考察した。技術的には、一人一人が練習を通じて技術を獲得し、そうした人間というパーツを組み合わせる更なる技術によって塔の成功/不成功が決まることを把握した。社会的には、新規参加者が正式メンバーになる過程で、チームにアイデンティティを抱かせる仕掛けが用意されていて、それに乗ることによってチームのあり方が身体化されていく様相を考察した。

  • 「衰退する」農村コミュニティに関する人類学的エスノグラフィー

    2018年  

     概要を見る

        本研究は、島根県隠岐の島町でも周縁地域とされる五箇地区(旧・五箇村)を対象に、経済的な利益追求のみに止まらない地域活動を続ける人々が、そういった活動にまで至らない人々をどのように取り込むのか、その契機や過程を、人類学的なエスノグラフィーを通して明らかにすることを最終的な目標と定め、対象地域の把握とアクターの選出検討を目的としている。研究期間内には、人類学的なフィールドワークを2回行い、主に歴史的な文献を収集し、その読み込みを進めた。そこでは特に聞き取り調査から、隠岐の島町の中でも五箇地区が内外から特別視されている点を把握できたので、隠岐の島町の表象(観光の視点を含めた)と五箇地区との関係性を人類学的な議論として考察しているところである。また、五箇地区で地元産業の活性化を促すアクターの行動や発言から、島嶼部である隠岐の、さらに周縁に位置するといえる五箇地区から、現代社会を見据えた「つながり」が発信されている様相を捉えつつあり、現在、これらを論文にまとめる作業を行っている。

  • 商業化するサンティアゴ巡礼路のホスピタリティに関する人類学的な研究

    2017年  

     概要を見る

      本研究は、近年、著しく商業化が進むサンティアゴ巡礼路のホスピタリティのあり方を、観光産業の視点を考慮しながら、文化人類学的に考察することを目的としている。本研究はサンティアゴ巡礼路が通る町(ルゴ県パラス市)の中心部の商業・宿泊施設におけるフィールドワークを中心に進められたが、大きく次の3点を把握することができた。1)ここ1~2年に新しい施設ができたことから、この巡礼が現在でもなお地域を支える重要な産業であること、2)そういった新しい宿泊施設は、他の一般的な造りとは異なり、巡礼者向けに設計されていること、3)オーナーや従業員の視点からは、巡礼者の大半はツーリズムとしてサンティアゴ巡礼を捉えていて、宗教色は非常に薄いということ、である。ここから申請者がこれまで調査してきた巡礼ホスピタリティとは似て非なる「ホスピタリティ」が浮かび上がる。それは、産業ではありながらそれを忘れさせるような気遣いやもてなしの実践から派生するホスピタリティであり、宿泊施設のオーナーや従業員の旅行体験や他人とのコミュニケーションを好む性格を基にしたホスピタリティなのである。

  • スペインの農村-都市社会で展開されるホスピタリティに関する人類学的研究

    2017年  

     概要を見る

      本研究はサンティアゴ巡礼が通過するスペイン・ガリシアの農村-都市地域を対象に、都市/農村地域によって異なる多様なホスピタリティのあり方を整理し、当該地域に「埋め込まれた」ホスピタリティの現在を人類学的に考察することを目的としている。2017年度は、主に、この研究全体の都市部、すなわち町の中心部で展開されるホスピタリティを捉えることを目指した。また、ホスピタリティの概念に関する文献調査も行った。 サンティアゴ巡礼路が通るパラス市の中心部におけるフィールドワークからは、次のことがわかった。1) 店舗も宿泊施設も主なターゲットを巡礼者と考えていること。2) 宿泊施設で提供されるホスピタリティは、ホテルにおける「おもてなし」に近いものであること。3)巡礼者と日常的に直接接点を持たないその他の住民は、巡礼者を他のよそ者と同じに捉えていること。ここから、報告者が既に考察したサンティアゴ巡礼特有の「巡礼ホスピタリティ」なるものとは異なる、一般的で「サービス」に近い歓待の態度が捉えられた。その理由は、ホスピタリティの提供者がかつての巡礼者ではないという点だと考えられる。

  • 民俗芸能の聖化と遺産化の過程に関する人類学的研究:ウエスカの踊り手を事例に

    2014年  

     概要を見る

     本研究はスペイン・ウエスカ市で毎年8月に行われる聖ロレンソ祭において、守護聖人「ロレンソ」と並んで最も注目を浴び、当聖人祭やウエスカを代表すると考えられる「ダンサンテス(踊り手)」の聖化と遺産化の過程を文化人類学の視点から明らかにすることを目的としている。文献調査、祭の参与観察、聞き取り調査や会話から、ダンサンテス自身の意識の変化(1980年代頃から)、ダンサンテスに対するメディアの変化(1990年代頃から)、そしてダンサンテスを受け止める一般市民および権威者の変化、の3点を捉えることができた。この成果を踏まえて現在、ダンサンテスの神聖化と遺産化に関する理論的な枠組みを入れた考察を急いでいる。

  • 「田舎性」の考察を通した文化の担い手に関する人類学的研究:ヨーロッパ人類学の再考

    2013年  

     概要を見る

     本研究はスペイン・ガリシアの地域的特徴とされる「田舎性」を探究し、それがどのように現代社会において維持/伝承/利用されているかの解明を目的としている。研究は主に文化人類学的なフィールドワークを基にし、夏期に1回調査地に赴いたが、期間が短すぎ、散在する農村住民とラポールを築き、田舎性の生成原理を考察するに足るだけのデータ収集には達しえなかった。しかしながら、最近始められた祭「私は田舎の出身者」に着目するという研究の展開に至ることができ、また、もともと農村などの「田舎」の研究でありながら、近年では都市部の研究に傾斜しがちなヨーロッパ人類学を再考する視点を提供できたと考える。

  • 文化遺産としての聖ロレンソ祭を通して見た地域アイデンティティの生成と継承の研究

    2013年  

     概要を見る

     本研究は、それまで都市祭礼として調査・研究してきたスペイン・ウエスカの聖ロレンソ祭(毎年8月9~15日に開催)を文化遺産の視点から捉え直し、遺産としての祭りを通して、現実世界を生きる人々に担われる文化を保存・継承する様相を考察することを目的としている。具体的には報告者の過去のフィールドワークが実質的に1998年で止まっていることから、それ以降のウエスカの都市空間や都市社会の変化を把握し、それが祭りにどのような変化をもたらしているかを検討した。そのために、できる限りの文字資料(祭りのプログラム、地元の新聞、地元の雑誌、教会発行の会誌、市役所所有のデータ)を収集・分析し、祭りに参加する芸能グループやレクリエーション集団の成員に現状に関する聞き取り調査を行った。また、祭り期間およびその準備期間における参与観察を通して、祭り自体の変化も考察した。 1999年以降の聖ロレンソ祭のプログラムおよび祭りへの直接参加を通して、祭りの進行自体にそれ以前と比べて大きな変化がないとわかった。主に教会側が進行する聖ロレンソ関連のミサ、宗教行列、「オフレンダ(Ofrenda de flores y frutos)」(花や収穫物をささげる行事)には日程や場所、ならびに進行上の変更はみられなかった。また、いわゆる「伝統的」に行われている行事である、祭り開始の合図としてのロケット花火点火(Chupinazo)、パレード(Carrozas y Cabargatas)、伝統グループであるダンサンテス(Danzantes de Huesca)の踊り、旧市場での祭り(Fiesta del Mercado)、闘牛(Corrida de toros)、聖ロレンソへの別れの挨拶(Despedida al Santo)、にも同じように進行していることが見て取れた。プログラム上の変化はマイナーチェンジであり、従って毎年の参加者の間では、祭り自体に大きな変化は感じられないと予測される。 しかし、全体的に警備が厳しくなり、行事が執行される場への入場が制限されることもしばしばであった。このような現状は、聖ロレンソ祭に積極的に参加する人々が増加し、人数を制限しなければならない状態を意味する。最も顕著な例は、ダンサンテスの踊りに集まる人の多さで、この現象は練習のときから見られた。先に述べた通り、聖ロレンソ祭の主要な行事は宗教的なものに限られていない。ここから、祭りへの関心の高まりが宗教心からではなく(あるいは、宗教心のみでなく)、ウエスカを表象するものに関心を抱いているのだとわかる。 ウエスカという社会や都市空間の変化についてだが、1999~2011年には社会労働者党(PSOE)の下、旧市街地の再開発と郊外への拡大に積極的に取り組み、都市空間を整備したことがわかった。郊外地区で特筆すべきは、大規模な会議施設を建設し、ウエスカでも国際会議やコンクールの決勝会場、あるいはフェリア(メッセ)のような催し物が可能となったことである。この建設に伴い、会議施設のそばに4つ星のホテルが建てられ、マドリッド―ウエスカ間の鉄道の便、およびサラゴサ(ウエスカに最も近いスペイン有数の大都市)―ウエスカ間の高速道路が整備され、人の流れも加速された。このような市の計画は聖ロレンソ祭にも影響があり、それまで町の中心である種無秩序に活動を展開していたレクリエーション集団が、市の要請で郊外地区に集められ、そこで祭り期間における彼らの活動を展開するようになった。しかし2011年から市議会の第一党となった民主党(PP)の下で、聖ロレンソ祭を町の中心に戻す傾向にあり、現在、模索しながらいくつかの案を実行している。 これらの調査結果から、1) 十数年前と比べて、聖ロレンソ祭という文化遺産への関心が高まり、ウエスカの表象として町の人々の間で重要性が増していること、2) 政治的な変化が祭りの空間的な使用に如実に現れ、聖ロレンソ祭がある意味で政治的な交渉の場ともなっている現実を見て取れた。 政治的な交渉の場である聖ロレンソ祭が、一般市民にとってどのような文化遺産であるか(すなわち、文化遺産の社会的用法)、および地域アイデンティティとの関係は、聞き取りをするインフォーマントの数を増やした上で考察すべきと考える。現在、ウエスカでのフィールドワークを継続しながら祭りのエスノグラフィを精緻なものとし、そこでの考察を論文にまとめているところである。

  • ローカルで起こる領土化の過程から見たガリシアの多様性:援助と「ルーラル」のあり方

    2012年  

     概要を見る

    ●研究の目的 本研究は、スペインにおいてカタルーニャやバスクと並んで地方主義が強いとされるガリシアの現状を把握するため、EUの共通農業政策による影響に着目しながら、村落地域の変化を捉えることを目的とする。村落地域に限定するのは、ガリシアに関する一般的な表象が「田舎(ルーラル)」または「低開発」であるからである。こうしたルーラルな特徴も、農業人口が減少するに従って、実際のところ外部からの援助で成り立っているのであるから、こうした文化表象の内実を、経済的援助による(再)領土化の問題として捉えることが可能であろう。本研究では、こうした政策や事業がローカルなレベルでどのように理解され、実践されているかを把握し、その援助を基に活動する主体であるアソシエーションが地域の表象を再創造しながら地域の境界を明確化させていく様相を人類学的に明らかにしようと試みるものである。●研究計画および成果 ガリシアの中でも報告者がインフォーマントとある程度の関係をもっている2地域においてフィールドワーク(夏季1回)を行った。すなわち、海岸地域である「死の海岸」地域(Costa da Morte)およびウジョア地域の主にパラス(Palas de Rei)である。いずれも、低開発地域とされ、地元の産業であった農業や漁業が衰退傾向にある地域である。フィールドワーク期間中は、文献も収集し、現地および文献調査を通じて、次のようなガリシアの現状が把握できた。 死の海岸地域では、主幹産業であった漁業は、現在ではほとんど行われておらず、既に海の資源を観光化する動きが出ている。実際には1960年代頃からこのような観光化が開始されていたのだが、当時は観光の視点から「海」といえば地中海を指したので、リアス式海岸であり、また、大西洋の冷たい海に面した死の海岸地域は、外部者を呼び寄せる観光資源として成功しなかった。しかし1990年代から急激な変化が生じ、田舎での自然と接する生活またはロハス的な発想が主に都市民の間で重んじられるようになり、民宿的な「田舎の家(casa rural)」の普及とも相まって、死の海岸地域も観光化が進んでいる。それに拍車をかけたのが、世界的に有名なサンティアゴ巡礼であり、死の海岸地域はその終着点ともいえるべき特別な「聖地」を2点(フィステーラFisterraとムシーアMuxía)含む。このような地域の観光化に大きく関わっているアソシエーションは「ネリア(Neria)」であり、これはEUからの援助を受けるためにつくられた団体である。しかしその活動に関しても、内部から批判的な意見も聞かれ、ネリアとは異なる動きをみせながら、同様に景観の保護や地域経済を考え、改善の方向に向ける努力を重ねる集団も出てきている。このような集団は、アソシエーションという形をとらず、したがってアソシエーションが主体となって地域活性化を行うという一般的な見解に再検討を迫る現象ともいえよう。 パラスでは酪農業や牧畜業中心の農業は衰退化の傾向を見せているものの、未だ顕在ではある。フィールドワークでは、パラス域内に位置するゴンタ(Gontá)、アルバAlbá、ウジョアUlloaという村で特に調査を行った。そこでは農業従事者の高齢化が進んでいること、また、小規模な経営が目立った。それでも何とか農業を積極的に続けていく者の中には、友人と土地を共有しながら協働(Cooperativa)する者、また、有機製法に傾斜し、大量生産ではなく付加価値での販売を狙う者も出て来ている。このような積極的な農業経営者の間で、エコツーリズム的な祭りを開催する動きがみられる。そこでは機械化する前の農具を使ったかつての農業のあり方を見せ、地元の生活も寸劇的に再現するのであるが、村全体が「舞台」となる。当然、地元の生産物も販売される。ただしこの祭りの意義は、外部から観光的に人を呼び込むだけではない。地元民にも自らがもつ資源の価値を認識してもらうことにある。以上2地域でのフィールドワークからは、それぞれ状況は異なるものの、何かしら地元民からの新たな動きが読み取れる。死の海岸地域の場合は、一方で明らかに外部からの援助を基に地域活性化を行っている集団があるものの、他方でそれに異議を唱え、異なる動きを見せる集団もみられた。パラスの場合は、外部からの経済的援助がどのように関わっているかはまだよくわかっていないが、地元からの動きがみられる点では死の海岸地域と同じである。また、両地域において、いわゆる「知識人」の存在がみとめられた。すなわち、死の海岸地域の場合、アソシエーションという形を取らない集団は、域外で高等教育を受けた(大学または大学院)人びとによって成立しているし、パラスの祭りには農業経営者だけでなく、大学で人類学の教鞭を取る地元出身の研究者も深く関わっている。いずれの場合も、地元を資源化する動きであり、その過程で当該地域と他との差異化を実践していると考えられる。●今後の課題 本研究では、最終的にはガリシア全体の相違性と類似性を捉えたいがために、海岸地域と内陸地域の任意の地域においてフィールドワークを行った。それなりに状況は捉えられたものの、時間的な制約から、人類学的な微細な参与観察に至らなかった。また、援助があるのか否かについても、行政資料を得られるだけのラポールを築くことができない場合もあった。これらの反省点を基に、今後もガリシアの表象としての「田舎性」の内実を調査し、検討を続けていきたい。

  • 多現場から構築されるガリシアの地域社会:ウジョア地域の民族誌

    2011年  

     概要を見る

    (1)研究目的 ガリシアは、19世紀末から20世紀にかけてスペイン国内外に移民を多数送出した歴史をもち、「移民」はガリシアを象徴する要素ともなっている。「ガリシアは外部からつくられる」(Murado, M.A., 2008 "Otra idea de Galicia", Editorial Debate)という歴史家の言葉からも、流出した移民がガリシア社会に与える影響の大きさがみとめられる。報告者がこれまで調査・研究してきたウジョア地域(comarca de Ulloa)においても、域外で暮らすウジョア地域出身者との関係が何らかの形で維持されている事実が見て取れる。では、その関係はガリシア地域社会の形成にどのように関わっているのだろうか。 本研究では、このような移民との関係の歴史と現状を明らかにし、それらをウジョア地域の民族誌の中に組み入れる試みを行う。そこでは多現場的なフィールドワークから、域内および域外の人びとのアイデンティティのあり方を考察したい。なお、ウジョア地域出身者も世界各地に暮らしているが、今年度は国内に移民として流出した人びとを対象とし、移民先も特にウジョア地域の中心地パラス・デ・レイ(以下、パラスと称す)出身者が多く移民したと予測されるビルバオに限定した。(2)研究成果 夏期にパラスにおいて、春期にビルバオにおいて、それぞれ短期でフィールドワークを行い、主にインフォーマントの生活圏とその外とのつながりについて聞き取り調査を行った。可能ならば、出身地を出た経緯や、目的地を選んだ経緯なども尋ねた。それらを基に、現時点で次の特徴を抽出した。 ・かつて移民として域外で生活し、現在パラスで農牧業を経営している住民の中には、都市的な生活を良いものとする態度、つまり、生活水準が高いとする態度がみられる。 ・パラスでは、夏季休暇の頃にかつての流出移民(家族や親戚)を多く受け入れる。そのため、歓迎する一方、「休暇時だけの住民(domingueros)」と呼び、同じ地域出身者とは厳密には一線を画す態度が見受けられる。 ・ビルバオに渡った移民第一世代とそれ以降の世代では、ガリシアに対する距離感が異なる。パラスとの関係性、すなわち親戚同士の行き来も、基本的に第一世代が中心になっているので、第二世代以降はその関係性は希薄化する傾向が強い。 ・ビルバオへの移民第二世代の中には、ガリシア人としてのアイデンティティよりも、「ポルトガレテ*の住民」「バラカルド*の住民」、すなわち住みなれた土地の住人としてのアイデンティティをもつ者も少なからずいる。*Portugalete/Barakaldo:ビルバオ郊外の工場地帯で、多くの移民が住む地域。 かつてビルバオ郊外を中心に栄えた軽金属業は現在では衰退し、1990年代後半以降は、ガリシアからの移民の流入もほぼ止まっている。このような状況において、ガリシア域外でガリシア人としてのアイデンティティを敢えて確認できる場所は、県人会に似た性格をもつアソシエーションであろう。そこではガリシア特有の踊りや音楽を習うこともでき、ガリシア料理に触れる機会もある。だが、それらアソシエーションの活動も、ガリシアの特徴を強調し、他との差異化を図るものではなく、異なる文化や人びととの交流を目指していることが調査からわかった。少なくともこれらのアソシエーションからは、ガリシア移民が、移民先に根づき、他の文化と共存しながら(異種混淆という形で)、新たにその土地の人間としてのアイデンティティを構築しようとする意思がみとめられる。 これらの調査から、当初、強力と考えられていた流出ガリシア移民の影響が薄れている現状が捉えられ、それは従来とは異なる形でガリシアに住むガリシア人のアイデンティティのあり方にも変化をもたらしていると考えられる。(3)今後の課題 今回の調査の成果を、ガリシアの外に住むガリシア人の現状とそのアイデンティティの変化としてまとめる必要がある。そこでは、今回入手できた工業都市としてのビルバオの歴史に関する文献と対照させながら、まとめていきたい。その上で、ガリシアの外に住むガリシア人(パラス出身の流出移民)をウジョア地域の歴史の一部として、民族誌における位置づけを検討し、他の調査の成果も入れながらまとめていきたいと考えている。

  • フランコ独裁政権下におけるスペイン民俗文化と民俗学・人類学との関係性に関する研究

    2009年  

     概要を見る

     本研究は、フランコ独裁政権時代(1939~1975年)における文化政策の把握と地方における実際の民俗文化の扱われ方を通して、スペインの民俗文化と民族学や人類学との関係性を明らかにすることを目的としている。そこでは地方文化の形成過程が考察されるが、地域文化を主たる研究対象とする民俗学や人類学の影響力、つまり政治性に着目しながら検討する。また、スペイン全体としての民俗学や人類学を把握しようと試みるが、報告者の主要なフィールドであるガリシアにおける動向を中心に研究は進められる。研究は文献資料の収集と読み込みを基本とし、研究機関における聞き取り調査も行った。そこから次の3点が明らかになった。 第一に、スペインの民俗文化研究に関する学問分野の位置づけを行うことができた。スペインにおいて民俗学は、19世紀に登場し、1970年代まではその存在がみとめられるが、現在は学として存在していない。民俗文化を扱う学問領域は、人類学である。スペインの人類学史を追っていくと、国内の民俗文化を扱う分野が民俗学から民族学へ、そして人類学に名称と方法論を変えていった経緯が把握できた。 第二に、フランコ政権下における民俗文化研究の政治性が明らかになった。独裁政権下において各地の民俗文化研究所は政府の厳しい管理下におかれ、地域主義的な思想をもつことが許されず、民俗文化研究は方法論も検討されることなく収集されていった。ある意味で政治性を抜き取られた民俗文化として、しかしスペインまたはマドリッドを中心とする民俗文化として、歌や踊りが人びとの前で披露されていたのである。 第三に、地方(ガリシア)の視点から、具体的な民俗文化の研究状況を把握することができた。既述の民俗文化とそれに関する学的状況は当然、ガリシア地方における民俗文化のあり方にも影響を及ぼした。ガリシアにおいては、ガリシア民俗に関する研究機関(Museo do Pobo Galego)は、フランコ政権終焉後の1976年を待たねばならなかった。そして、現在につながる地方主義の動きと結びついたのは、フランコ政権以前に展開されたガリシア主義運動で「選択」された民俗文化だったのである。 このように本研究では、スペイン全体と地方の視点、すなわちマクロとミクロな視点の両方から、地方の民俗文化およびそれに関する研究の状況と、そこに潜む政治性が捉えられている。さらに歴史を遡り、より歴史的な視点から民俗文化のあり方とその研究の変化についての考察を行うことが今後の課題である。

  • 文化遺産の担い手に関する民族誌:アソシエーションの公共性に関する人類学的考察

    2007年  

     概要を見る

     本研究はサンティアゴ巡礼路(対象地域はスペイン・ガリシア州に限る)に関わるアソシエーションの公共性を明らかにしようとするものである。2007年度は文献調査および文化遺産に関する研究者との意見交換を通じてヨーロッパおよび日本における先行研究の整理を行った。1.スペインおよびヨーロッパにおける文化遺産研究 これまでの「遺産」(西:patrimonios,仏:patrimoins)に関する資料は、1)行政、遺産保護に携わる者による技術論、2)論争的、文化国家の擁護あるいは告発、の内容に大別される。ヨーロッパにおいて古くから歴史的建造物および美術品は保護の対象とされてきた経緯があるが、大きな変化は、従来の概念が拡大解釈され、例えば現在では使われなくなった農具や田園風景までも遺産として捉えるようになったことである。そこには1972年にUNESCOで採択された世界遺産条約(正式名称:世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)の影響があると予測される。ヨーロッパではこの30年来、文化遺産を保存していくことが現代社会にとってどのような意義をもつのかという問題が、様々な学問分野で議論されてきている〔荻野昌弘 2002「編者序文」荻野昌弘編『文化遺産の社会学 ―ルーヴル美術館から原爆ドームまで』, 新曜社, pp.i-iv.〕。本論が対象とするスペインでは1970年代から博物館関係者の間で議論が行われていたものの、人類学などの研究のレベルではフランスなどに少々遅れて90年代から研究成果が出始めた。 その多くは「遺産」とは社会的な構築物であり、したがって人工的に創られた概念であることが指摘され、主に「遺産化」が博物館、観光、法律との関係で歴史的に検討される、または政治性をはらんだ文化論として抽象的に論じられている〔例えば:García García, José Luis 1998 “De la cultura como patrimonio al patrimonio cultural” Política y sociedad No 27, Fac. CC. Políticas y Sociología de la UCM, pp.9-20; Prats, Llorenç 1997 Antropología y patrimonio Barcelona:Ariel など〕。プラットは1990年代の段階で遺産に関する事例研究の少なさを指摘しているが〔Prats, 1997, ibid, p.14〕、近年ではより小さな地域における遺産の活用あるいは有用性が実践的なレベルで議論される傾向にある。2.日本における文化遺産研究 日本においては1992年に通称「世界遺産条約」に加入してから現在まで、地方自治体および地域住民からその登録に向けての運動が広がり続けている。この現象に代表されるように、地域の資源を基礎にした文化遺産あるいは自然遺産への関心が高まりを見せ、人類学、民俗学、社会学などからも研究が重ねられてきた。その資料の対象地域も国内外に及び、現代社会における「遺産」をめぐる問題の多くは、地域がもつ資源あるいは生活環境の中からある部分が「遺産」として選択、評価または再評価される過程、つまり文化が客体化されるような「遺産化 (patrimonialization)」のプロセスが考察されてきた。例えば、山下晋司〔1988『儀礼の政治学 ―インドネシア・トラジャの動態的民族誌』, 弘文堂; 1996, 『楽園』の創造 ―バリにおける観光と伝統の再構築」山下晋司編『観光人類学』, 新曜社, pp.104-112〕による国家や来訪外国人などの外的な要因によって再構築されるトラジャの伝統儀礼やバリの民族芸能、橋本裕之〔1996,「保存と観光のはざまで ―民俗芸能の現在」 山下晋司編『観光人類学』, 新曜社, pp.178-188〕によるホストとゲストがもつ文化コードの違いから創出されるフィジーの民族文化、塩路有子〔2003,『英国カントリーサイドの民族誌 ―イングリッシュネスの創造と文化遺産』, 明石書店〕による地元民ではなくインカマーにより維持される英国カントリーサイド(ピッチング・カムデン)の景観、森田真也〔2003,「観光客にとっての祭礼、地域にとっての祭礼 ―沖縄竹富島の種子取祭から」, 岩本通弥編『記憶』, 朝倉書店, pp.178-203〕による観光の影響をも受け多様な意味を生成している沖縄・竹取島の伝統的な祭礼、などが挙げられる。これらは、ローカルな地域社会の論理とより大きな社会の流れとを同時に視野に入れ、その交錯と動態の考察を試みた研究と位置づけられる。また、同様の視点をもって、川森博司〔1996,「ノスタルジアと伝統文化の再構成 ―遠野の民話観光」 山下晋司編『観光人類学』, 新曜社, pp.150-158; 2001,「現代日本における観光と地域社会 ―ふるさと観光の担い手たち―」『民俗学研究』66―1 pp.68-86〕は遠野の、才津祐美子〔2003,「世界遺産『白川郷』の『記憶』」岩本通弥編『記憶』, 朝倉書店, pp.204-227〕は白川郷の事例から、地域の資源の観光化や保存の過程において困難な状況を乗り越えながら発現される、住民による生活のための創意工夫のあり方を明らかにした報告もある。いずれの場合も、歴史や文化の商品化および「伝統文化」を利用した「文化産業」が進む中、それらの担い手の論理、すなわち地域住民の「遺産」との主体的な関わり方がフィールドワークを通じてミクロな視点から分析されているのである。このような調査・研究が学際的な広がりをもって結実した発展的な成果が、岩本を代表とする研究成果報告書〔2004,『文化政策・伝統文化産業とフォークロリズム ―「民俗文化」活用と地域おこしの諸問題―』(課題番号13410095)平成13~15年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))研究報告書〕で、これは評価すべきものであり、「遺産」とその担い手の問題を考える上で本研究でも大いに参考となる資料である。 本研究は当初、2007年7月1日~2008年3月31日まで行われる予定であったが、同課題で科学研究費の研究として追加採択されたため、9月30日で助成金が打ち切られることとなった。そのため当初の研究目的として挙げていた、文化遺産とのかかわりにおけるアソシエーションに関する調査・研究の実行には至らなかった。先に挙げた文献調査には対象地域であるガリシアに関して未だ不十分なところが多いが、現段階では文化遺産に関する国内外の先行研究を大枠で掴めたのではないかと考える。

  • 世界遺産「サンティアゴ巡礼路」の社会的用法に関する基礎的研究―地域文化の担い手としてのアソシエーションからのアプローチ―

    2006年  

     概要を見る

     本研究は、スペインのサンティアゴ巡礼路に関して文化活動を展開するアソシエーション(「サンティアゴ巡礼路・ガリシア友の会」および「スペイン・サンティアゴ巡礼路友の会連盟」)を対象に、「団体としての活動」と「構成員個々人の生活」との関係性の把握を試みたものである。そのため、1)各団体の沿革を調査し、2)次いで、可能な限り構成員の日常生活に関する聞き取りを行った。1)「サンティアゴ巡礼路・ガリシア友の会」の沿革に関しては基本的に直接インタヴューで把握し、その他、彼らから提供された会誌なども参考にした。「スペイン・サンティアゴ巡礼路友の会連盟」の沿革については、主に創立当初からの会誌を参考にした。そこから、前者は、その成立に創立者のサンティアゴ巡礼に対する強い想いがみとめられた。後者は、個人の想いというよりも、むしろ、1975年のUNESCOの勧告および地域活性化を目論む地方政府の意図が強くみとめられた。ただし大枠として、これまで報告者が研究してきた文化活動を展開する他種のアソシエーションとそれほど変わらない構成、活動内容、団体維持の仕方を有していることもわかった。2)構成員個々人の生活に関しては、主に「サンティアゴ巡礼路・ガリシア友の会」の会員に対して調査を行った。その結果、ほぼ全員が地域社会で仕事と家庭を持ち、ほとんどが高学歴を有している人物であることがわかった。注目すべきは、個人的に思い入れがあるサンティアゴ巡礼スピリットのプロモーションと巡礼路の維持・整備という活動が、家族と共に行われている点であり、収入を得るための仕事や他の趣味との関係の弊害とはならない点である。つまり、特に中心的に活動している人物は、会議などで時間を割くことがあるものの、事務的にならず、多くの場合、遠足や食事会が同時に設定されているように(ガリシア州内で常に会議の場所が変わる)、娯楽的要素が大いに盛り込まれているのである。こうした「肩の力を抜いた」活動が基になって、サンティアゴ巡礼路は原型を留め、地域のシンボルおよび世界遺産として維持されているのである。これまで文化を支える活動というと、その活動のみに従事している側面ばかり強調されてきたが、本研究では、日々の生計や家庭生活を維持しながら遺産を守る人びとの現実を提示できたと思う。先に述べたとおり団体としてはどのアソシエーションのあり方も変わらないものの、構成員を細かく見ていくと、内実に変化が見られ、それが今日のアソシエーションの紐帯を特徴付けているのだと考えられる。本研究は、スペインにおけるアソシエーション像と遺産を把握するには未だ不完全ではあるが、基礎的研究としては目標に達したと考えている。

▼全件表示