Updated on 2026/04/18

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OIKI, Nina
 
Affiliation
Faculty of Social Sciences, School of Social Sciences
Job title
Research Associate
 

Internal Special Research Projects

  • 「母」か「市民」か?ーイタリア王国における女性選挙権をめぐる議論に関する考察

    2025  

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    本研究は、イタリア王国期における選挙制度改革を対象とし、女性の政治的排除がいかに制度として形づくられていったのかを明らかにすることを目的とする。1912年選挙法は、男性普通選挙の導入によって議会制デモクラシーを大きく前進させたものとして広く評価されてきた。しかしその過程では、女性の選挙権が議論されながらも退けられ、限定的な選挙権すら認められなかった。本研究はこの点に注目し、包摂の拡大として理解されてきた制度改革が、同時に排除の再編を伴う過程でもあったことを検討する。分析にあたっては、イタリア語による議会議事録および同時代の言説資料を収集・精査し、審議の中で提示された論拠と論点の展開を追跡した。制度条文とそれを支える言説を照合することで、誰が有権者として想定されていたのか、すなわち市民資格の境界がどのように引かれていたのかを検討した。そのうえで、女性選挙権をめぐる議論がいかなる論理で取り込まれ、どの段階で排除へと収束していったのかに着目した。本助成期間の検討からは、女性の排除が単なる偏見や社会の遅れに還元されるものだけではなく、政党間の競争や支持基盤の維持といった政治上の合理性に支えられた選択として制度化されていたことが明らかになった。すなわち、排除は制度の外側に残る副次的な結果ではなく、制度を成立させる条件の一部として組み込まれていた可能性が示された。審議においては、母性や社会秩序が繰り返し根拠として用いられ、女性は政治の担い手ではなく、国家に奉仕する役割として語られていた。以上の検討は、近代における市民権がジェンダーに沿って編成されてきたことを示唆するとともに、男性普通選挙を民主化の進展として捉える従来の理解に再考を促すものである。本研究は、1912年選挙法を包摂の拡大と排除の固定化が同時に進む再編として捉え直す視点を提示した。もっとも、本研究は限られた助成期間に基づく基礎的検討にとどまり、分析には資料面および理論面での制約が残る。今後は対象をファシズム期へと広げ、女性政策や地方選挙権構想との連続性を検討することで、市民権のジェンダー化がいかに維持され、再編されていくのかをより精緻に明らかにしていく必要がある。