特定課題制度(学内資金)
特定課題制度(学内資金)
-
「異国・異界」を表象するやまと絵における格子模様 ―「桐壺」巻の鴻朧館から―
2024年
概要を見る
日本における文と絵画の関係といえば、主に経典類や文学作品に基づいた絵画、つまり、文から絵画への影響が挙げられる。『法華経』に基づいた「法華経変相図」や、『源氏物語』に基づいた源氏絵などがその例である。しかし、文学作品を絵画化する際には、いくつかの限界が存在する。特に、作品に登場する鬼や妖怪、異国や異界の描写は大きな課題となる。日本文学では、古くからさまざまな「外」が描写されてきた。「外」とは、黄泉や妖怪が棲む異世界、あるいは中国などの外国を指す。こうした異国や異界の具体的な表現が文学テクスト自体に示されていない場合、やまと絵ではそれらをどのように描いてきたのかが問われる。 本研究では、『源氏物語』「桐壺」巻に登場する外交用の施設「鴻朧館」に描かれた格子模様に注目し、その模様が「異国」を表象する可能性について考察した。また、多くのやまと絵に目を向け、格子模様の役割を網羅的に検討した結果、40例以上の格子模様が確認された。これらは、①日本において外国人がいる場所;②日本において妖怪・鬼・龍などが住む場;③日中における寺院;④中国の4つの類型に分類できる。 これらの事例は、平安時代から江戸時代にかけて描かれ、仏典や縁起物、物語、室町草子といったさまざまな作品に見られる。また、表現形式は屏風、絵巻、画帖、版本など、多岐にわたっていた。一方、これらの事例に共通するのは「外」という概念であろう。仏・菩薩、妖怪・鬼・龍、外国人などは、それぞれ異なる存在でありながら、日本人にとっては「異人」として認識されていたと考えられる。さらに、このような表現が生まれた背景には、中国絵画の影響や日本の民俗学的観念が存在することが推察される。 まとめると、格子模様はやまと絵において異国や異界を表象する視覚的手段として活用されており、異なる文化や世界観を直感的に伝える役割を果たしていたと考えられる。