2024/05/03 更新

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サカイ ヒロアキ
酒井 宏明
所属
文学学術院 文学部
職名
助手
 

特定課題制度(学内資金)

  • 戦後日本社会と「精神病理学第二世代」――精神医学の知識社会学にむけて

    2023年  

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     本研究では、精神医学の専門知・専門技術の戦後日本における展開をとくに意識しながら、M.フーコーやI.ハッキング、N.ローズなどを参照項として医学史的記述に留まることなく、学知の在りさまと戦後日本の社会変容を関連づける知識社会学的研究の端緒となることをめざした。現時点では、次のような見通しを得ている。 中井久夫・木村敏・笠原嘉らを旗手とする「精神病理学第二世代」の知は、哲学的・社会理論的水準に踏み込むものであった。が、操作的診断マニュアルの普及や生物学的精神医学の進歩と台頭など、現在に至るまでの科学化された「精神医学」にあっては省みられることも減ったという。「精神病理学」の隆盛と衰微じたい、多分に時代や社会と科学技術に被拘束的なものである。 まずは「精神病理学」そのものに内在的な社会理論としての奥深さやポテンシャルに着目し読解を進めていったが、一次文献・二次文献を渉猟し得られる重要な観点のひとつとして、「精神病理学第二世代」的な知に固有で、人文知・社会理論的な知とは異なるあり方に関わる点が挙げられる。彼らは、独特な社会のまなざし方によって、人文・社会科学者とは異なる水準で「社会の観察者」となっている。この場合、彼らは社会そのものの観察者ではない。「臨床医」の立場から目の前の患者ひとりひとりを「診る」ことによって/「診る」ことを通して、そこではじめて「社会」が現れていることに気づかされる。 むしろここで特有の現れ方をする「社会」こそ、「精神病理学」という学知による観察を経た「社会」であるのではないだろうか。「社会の喪失」あるいは「社会のポスト心理学化」という潮流は、人間を「診る」という営為の変容を意味しているとも示唆される。