特定課題制度(学内資金)
特定課題制度(学内資金)
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1920-30年代の日本文学における〈声〉への回帰とラジオの関係性
2024年
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本研究の主な研究成果として、まず谷崎潤一郎の「春琴抄」(『中央公論』48年6号、1933年6月)を取り上げた論文「一九三〇年代における女優の〈声〉の役割――谷崎潤一郎「春琴抄」のラジオ化をめぐって」(『日本近代文学』第111集、2024年11月、査読付)が挙げられる。本論文では、1934年12月に大阪放送局(JOBK)から全国へと放送されたラジオ物語「春琴抄」の台本(NHK放送博物館所蔵)に注目し、初出本文や島津保次郎監督の映画「春琴抄 お琴と佐助」(松竹蒲田、1935年6月)との比較を通して、脚本を担当したJOBK文芸課課長・奥屋熊郎の戦略や、語りを務めた女優・岡田嘉子の〈声〉の機能について分析した。 続いて、谷崎の「黒白」(『大阪朝日新聞』朝刊・『東京朝日新聞』朝刊、1928年3月25日-7月19日)を取り上げた論文「谷崎潤一郎「黒白」とナンセンス――一九二〇―三〇年代における〈笑い〉の表象」(『文藝と批評』第13巻第8号、2024年11月、査読無)では、ナンセンス文学の観点から「黒白」における〈笑い〉とマスメディアの関係性について検討し、テクストが1930年代の「ユーモア小説」でも重視された「諷刺性」、すなわち出版資本主義に対する批評性を内包していることを明らかにした。 また、口頭発表「舞台からラジオへ――谷崎潤一郎「蘆刈」と久保田万太郎の試み」(2024年度早稲田大学大学院文学研究科現代文芸コース研究集会、2024年12月14日、於早稲田大学)では、谷崎の「蘆刈」(『改造』14巻11-12号、1932年11-12月)を取り上げ、久保田万太郎脚色による戯曲版(1940年5月上演)・ラジオ版(1940年5月放送)のテクストの分析から、「蘆刈」におけるアダプテーションの問題を検討することを試みた。 以上の研究成果を踏まえつつ、今後は谷崎以外の作家にも注目しながら、引き続き1920-30年代における日本近代文学とラジオの関係性について、より詳細に検討していくことを試みる。
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1930年代の谷崎潤一郎文学におけるジェンダー表象と大衆的メディア
2023年
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本研究の主な研究成果として、まず谷崎潤一郎の「武州公秘話」(『新青年』12巻13~14号/13巻1~2・5~9・11~13号、1931年10~11月/1932年1~2・4~11月)を取り上げた論文「谷崎潤一郎「武州公秘話」におけるセクシュアリティの表象―1930年代の変態性欲言説と良妻賢母思想をめぐって」[『国文学研究』第198集、2023年6月](査読有り)では、西欧の近代的性科学から出発し、エロ・グロ・ナンセンスとして大衆に消費されていた変態性欲言説が、テクストにおいて同時代のジェンダー秩序・異性愛体制のシステムを支える良妻賢母思想を相対化していく過程が見出されることを明らかにした。 続いて、口頭発表「変奏される「歴史」―谷崎潤一郎「吉野葛」とJOBKのラジオ放送」[日本文学協会第42回研究発表大会、2023年7月9日、於二松学舎大学]では、1930年代に文芸課長・奥屋熊郎を中心として東京とは異なる独自のプログラムを企画・放送していた大阪中央放送局(JOBK)の活動にも着目しつつ、谷崎の「吉野葛」(『中央公論』46巻1~2号、1931年1~2月)において口碑・語り物・音曲といった〈声〉の文学が、周縁化された吉野の歴史(=稗史)を浮かび上がらせるプロセスを精査し、同時代「地域性」と密着していたラジオが文学テクストに与えた影響を考察した。 さらに、口頭発表「〈声〉を取り戻す女性たち―谷崎潤一郎「春琴抄」とラジオ「物語」」(Women Recovering Their Voices: Tanizaki Jun’ichirō’s Shunkinshō (A Portrait of Shunkin) and the Radio Adaptation “Monogatari”)[Columbia University-Waseda University Workshop 2023、2024年1月13日、於二早稲田大学]では、1934年12月14日にJOBKから「物語 春琴抄」として放送された「春琴抄」(『中央公論』48年6号、1933年6月)に注目し、NHK放送博物館所蔵の「物語 春琴抄」台本と「春琴抄」の初出本文との比較検討を行いながら、ラジオ放送時に語りを務めた女優・岡田嘉子の〈声〉の機能について分析した。 以上の成果を踏まえつつ、今後はその他の谷崎潤一郎の文学テクストとラジオを中心とした同時代の〈声〉のメディアの関係性についてより詳細に検討していく。