特定課題制度(学内資金)
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1930年代の谷崎潤一郎文学におけるジェンダー表象と大衆的メディア
2023年
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本研究の主な研究成果として、まず谷崎潤一郎の「武州公秘話」(『新青年』12巻13~14号/13巻1~2・5~9・11~13号、1931年10~11月/1932年1~2・4~11月)を取り上げた論文「谷崎潤一郎「武州公秘話」におけるセクシュアリティの表象―1930年代の変態性欲言説と良妻賢母思想をめぐって」[『国文学研究』第198集、2023年6月](査読有り)では、西欧の近代的性科学から出発し、エロ・グロ・ナンセンスとして大衆に消費されていた変態性欲言説が、テクストにおいて同時代のジェンダー秩序・異性愛体制のシステムを支える良妻賢母思想を相対化していく過程が見出されることを明らかにした。 続いて、口頭発表「変奏される「歴史」―谷崎潤一郎「吉野葛」とJOBKのラジオ放送」[日本文学協会第42回研究発表大会、2023年7月9日、於二松学舎大学]では、1930年代に文芸課長・奥屋熊郎を中心として東京とは異なる独自のプログラムを企画・放送していた大阪中央放送局(JOBK)の活動にも着目しつつ、谷崎の「吉野葛」(『中央公論』46巻1~2号、1931年1~2月)において口碑・語り物・音曲といった〈声〉の文学が、周縁化された吉野の歴史(=稗史)を浮かび上がらせるプロセスを精査し、同時代「地域性」と密着していたラジオが文学テクストに与えた影響を考察した。 さらに、口頭発表「〈声〉を取り戻す女性たち―谷崎潤一郎「春琴抄」とラジオ「物語」」(Women Recovering Their Voices: Tanizaki Jun’ichirō’s Shunkinshō (A Portrait of Shunkin) and the Radio Adaptation “Monogatari”)[Columbia University-Waseda University Workshop 2023、2024年1月13日、於二早稲田大学]では、1934年12月14日にJOBKから「物語 春琴抄」として放送された「春琴抄」(『中央公論』48年6号、1933年6月)に注目し、NHK放送博物館所蔵の「物語 春琴抄」台本と「春琴抄」の初出本文との比較検討を行いながら、ラジオ放送時に語りを務めた女優・岡田嘉子の〈声〉の機能について分析した。 以上の成果を踏まえつつ、今後はその他の谷崎潤一郎の文学テクストとラジオを中心とした同時代の〈声〉のメディアの関係性についてより詳細に検討していく。