千葉 明夫 (チバ アキオ)

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所属

理工学術院

職名

名誉教授

 

特定課題研究 【 表示 / 非表示

  • 一次相転移点とその近傍に現れる複素比熱と相転移のスローダイナミクス

    2003年  

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    周期的に試料を加熱し、温度変化を測定する測定法は動的熱測定法と呼ばれ、特にガラス転移の中の分子運動研究において広く用いられている。入力熱流と温度変化の間に位相のずれがある場合、比熱は複素量に拡張される。この拡張された比熱は複素比熱と呼ばれる。ガラス転移温度域で得られる複素比熱から分子振動の振動周期を知ることができるが、第1種相転移温度域で測定される複素比熱についてはその実体や解釈に検討すべき問題が多く残されている。我々は第1種相転移温度域で測定される複素比熱の実体を解明する為、動的熱測定法と顕微鏡をもちいたその場観察法により、直鎖状のアルカン(C36H74)とポリエチレングリコール(Mw4210)の第1種相転移点とその近傍で複素比熱の測定と試料状態の観察をおこなった。測定を行った温度域はアルカンの固相-回転相転移と融解、ポリエチレングリコールの融解を含む領域である。温度制御を非常に綿密に行った結果、測定を行ったすべての第1種相転移温度域で比熱が複素比熱となることがわかった。特に我々は0.05-0.0003 Hzという非常に低い周波数領域に注目して測定を行った結果、複素比熱の詳細な周波数依存性を得ることに成功した。我々は得られた結果より、数十から数百秒のタイムスケールのスローダイナミクスが関与する相転移機構が存在し、それが複素比熱の原因と考えた。この考えを実証する為に偏光顕微鏡をもちいて試料の様子を観察した。動的熱測定で培った温度制御のノウハウを用い、丁寧な温度制御を行った結果、第1種相転移中の試料では低温で安定な相と高温で安定な相が開放系においても共存することがわかった。顕微鏡観察を行いながら、同時に動的熱測定を行える装置を開発し、共存している相の境界面が温度の変化と共に変動することを明らかにした。また変動周期は複素比熱から得られたスローダイナミクスのタイムスケールとよく一致することがわかった。本研究により、第1種相転移温度域で共存している相の境界面が数十から数百秒のタイムスケールで変動し、複素比熱として測定されることが明らかになった。また、複素比熱から見積もられる相を変動させる為に必要な熱エネルギーは潜熱として測定されるエネルギー量に近いことも明らかになった。つまり複素比熱として測定される相境界面の変動は相転移に必要な熱エネルギーの多くを必要とする現象である。

  • マイクロ波誘電分光法による生体関連物質水溶液のダイナミック構造

    2001年  

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    (A)活性化エンタルピー、エントロピーの過剰部分モル量を定量的に分離・評価する独自の解析法(the Excess Partial molar Activation Quantity=EPAQ approach)を用い、水/メタノール、水/エタノール、水/2-プロパノール系、水/1-プロパノール系の結果の比較から、疎水基のサイズと形状と水素結合液体のダイナミクスの関連について詳細な情報を得た。水素結合ネットワークの組換えを阻害するアルコール疎水基による局所的な水分子の密度低下のみでなく、アルコールOH基が次の水素結合パートナーを得る確率に関係する、疎水基の立体障害効果が水素結合の再配列ダイナミクスに重要な役割を果たすことを示した。 (B)生体物質の機能を水との相互作用の観点から明らかにする基礎として行った、Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Ser、Thr、Pro、Cys、Metの10種のアミノ酸水溶液の研究では、アミノ酸分子の回転拡散(j=1)、バルク水の共同運動(j=2)、水単分子の回転(j=3)、に関する3つの緩和プロセスの存在を明らかにした。(i)純水中とアミノ酸水溶液のバルク水プロセス(j=2)のKirkwoodファクターの比較による、アミノ酸との相互作用によって外部電場に対する配向が凍結したかに見える溶質1個当たりの水分子の数=「実効水和水Z」の見積り、(ii) アミノ酸分子の回転拡散(j=1)プロセスの緩和強度からのアミノ酸の双性イオンの気相ダイポールモーメントμGの定量的な計算、により、(i)アミノ酸の側鎖グループの疎水性の増加と共に実効水和数Zが急激に増加するが、疎水性の高いアミノ酸では濃度の増加と共にZは急激に減少し、アミノ酸疎水基の急激な会合を示唆する。(ii)μG(~12-13D)はアミノ酸の濃度によらず、ほぼ一定であり、高濃度域においてもアミノ酸のダイポール-ダイポール回転相関は無視できる。という驚くべき結果を得た。(C)電解質高分子であるカラギーナンの水溶液中において、カウンターイオンの高分子鎖への束縛とゲルの架橋構造との関係に注目し、導電性による測定精度の低下を改善する誘電率測定装置を開発し、ポリマーの軸と平行及び垂直方向へのイオンの揺らぎに帰属される、kHz及びMHz領域に誘電緩和を観測した。前者は低温のへリックス状態のみで巨大な緩和強度が観測され、コイルへリックス転移による軸に沿った線電荷密度の増大と、そのイオン選択性を、誘電緩和測定から確認した。

  • 超高周波誘電緩和による水と有機化合物の混合系の動的分子会合の研究

    2000年  

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     時間領域反射法(TDR法)を用いたマイクロ波誘電分光法により、数ピコ秒~数百ピコ秒レベルの分子ダイナミクスを観測し、誘電緩和時間、緩和強度、スペクトル形状の精緻な検討から、水と各種有機化合物の相互作用と混合状態の動的側面を調べた。「時間領域分割モディファイドダイレクト法」という測定法の導入により、導波管を用いた周波数領域法と同等の精度のデータを短時間で得ることが可能となり、種々の系の誘電緩和時間を1%程度の誤差という高精度で得ることができた。 本研究の中核を成したのは水-アルコール系の研究である。生体物質の機能発現と高次構造安定性に重要な役割を果たしている疎水性効果を調べるモデル物質系として、水-メタノール、水-エタノール、水-1-プロパノール、水-2-プロパノール、水-tertブタノールの混合系を選び、溶質疎水基の大きさと形状の違いが疎水性水和(疎水基周囲で水の水素結合網が強化される現象)や疎水性相互作用(疎水性水和によるエントロピー効果により疎水性溶質が会合する傾向を持つ現象)に与える影響や、わずかな濃度変化に強く依存する混合状態の動的側面について系統的に調べ、比較検討した。我々が初めて実現した2成分混合系における活性化の自由エネルギーΔG、エンタルピーΔH、エントロピーΔSの過剰量及び過剰部分モル量を定量的に評価する解析法をこれらのアルコール-水混合系に応用し、多様な系における水と有機化合物の相互作用を統一概念で記述する道を示した。 全ての系でアルコールの過剰部分モル量ΔHAEとΔSAEが、極大を示す特異な2つの濃度(エタノール系ではX=0.04と0.08;Xはアルコールモル分率、水の体積分率Xvに換算すると全ての系でXv=0.9と0.78付近)の存在を見出し、MDシュミレーションや熱力学測定等の結果との比較から、水の局所構造がテトラへデラルペンタマーで、アルコール単分子を囲むクラスレート状水和シェルと、疎水性相互作用によって会合した2つ以上のアルコール分子を包摂し、水の局所構造が3配位である水和シェルの2種類が存在することを示した。また、アルコール高濃度領域(エタノール系ではX>0.18、全ての系でXv<0.4-0.5)ではΔHAEとΔSAEはゼロに近いことを見出した。この濃度域では、混合系中のアルコール分子を取り巻く環境は、純粋液体中とあまり変わらないことを明らかにし、アルコール分子は鎖状のクラスターを形成し、水分子は親水基のサイトに付加しているという描像を得た。これらの結果は国内外の学会で発表され、積極的な論文発表を行った。