Internal Special Research Projects
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2002
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本研究の目的は、ラマン分光法から得られる生体物質の分子構造に関する豊富な知見を、疾病、とりわけ臓器や器官のガン化等の早期診断に役立てるために,生体内の臓器・器官のラマンスペクトルをin vivo (生体内)で、苦痛や危険を与えることなく、実時間で迅速に測定できるラマン分光法を開発する事を最終目的とし,そのためのハードおよびソフト面での基礎的研究を行うことである。科研費が不採択であったため、ハード面の研究は行わず、ソフト面のみの基礎研究を行った。特に、紫外光照射による人体への影響として、光毒性、光アレルギー性、光によるガン化の問題を中心に、時間分解ラマンスペクトルおよび時間分解吸収スペクトルによる研究を行った。(1)ソラーレンおよびその誘導体の光化学:乾癬や白癜風の治療に、ソラーレン誘導体を患部に塗布した後、紫外光を照射する光化学療法がある。この療法の生理学的作用はソラーレンがDNAの二重らせんを保持している塩基対の間に入り込み、二本のらせん間に共有結合の橋を形成して、DNAを不活性化するとする説が有力である。この時の反応の機構を明らかにすることを目指した。また、この治療法には皮膚ガンの危険性や、光増感による色素沈着などの副作用も報告されている。この副作用の機構も調べた。我々は、ソラーレン(PS)、5-メトキシソラーレン(5-MOP)、8-メトキシソラーレン(8-MOP)についてT1状態およびラジカルアニオンの共鳴ラマンスペクトルおよび過渡吸収を測定し、置換基の有無や位置の違いによりスペクトルの溶媒依存性が大きく異なることを明らかにした。(2)クロルプロマジンおよびフェノチアジン誘導体の光化学反応:トランキライザーとして重要なクロルプロマジンの光毒性・光アレルギー性の機構を明らかにするために、クロルプロマジンおよびフェノチアジン誘導体の光化学反応を、ナノ秒時間分解吸収およびナノ秒時間分解ラマン分光により研究した。クロルプロマジンでは光励起により最低励起三重項状態T1とカチオンラジカルの他に、もう二種類の過渡分子種XとYが生成することを明らかにした。XはT1から生成し、YはXより生成する。Xは塩素を置換基としてもたないプロマジンやフェノチアジンでは生成しないことから、Xは塩素がとれたラジカルである可能性があり、プロマジンの光毒性・光アレルギー性がこのラジカルによって引き起こされる可能性が高いことを示した。
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2000
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(1)ジベンゾスベレノンの光化学反応:ピコ秒時間分解ラマン分光法により、励起三重項状態T1での振動冷却過程を観測した。励起一重項状態S1での振動冷却については、これまでかなりの報告があるが、T1状態で振動冷却が観測されたのはこれが初めてである。この分子では、S1がn - π*状態、T1がπ - π*であり、S1→T1項間交差が許容であるため、S1→T1項間交差が数ピコ秒の短時間に起こる。この結果、T1の振動励起状態にある分子数が瞬間的に増大するために、振動冷却過程が観測されたものと考えられる。なお、振動冷却は、ラマンバンド1517cm-1の20-100psの時間領域での高波数シフトとして観測されたが、このバンドに対応する反ストークスバンドは観測されなかった。実際の振動冷却は低波数振動モードで起こっていると考えられる。(2)ビフェニルの光化学反応:励起一重項状態S1の構造が中央のC-C結合周りでねじれた構造から平面トランス形に変化することを明らかにした。この構造変化の時定数は20ピコ秒以下であり、粘性の大きい溶媒中では構造変化は減速する。S1状態のラマンスペクトルはT1状態のラマンスペクトルに極めて似ていることが分かった。このことは、S1状態の構造がT1状態の構造と類似していることを示唆している。ナノ秒時間分解赤外吸収スペクトルとナノ秒時間分解ラマンスペクトルとの比較から、T1状態は対称中心を持つトランス平面構造をとっていることが分かった。従って、S1状態も同様の平面構造をとっていると考えらる。(3)クロルプロマジンの光化学:ナノ秒時間分解ラマン分光およびレーザーフラッシュフォトリシス法により、フェノチアジン、クロルフェノチアジン、プロマジンおよびクロルプロマジンの光化学反応において、出現する過渡分子種の共鳴ラマンスペクトルと過渡吸収を測定した。これらの内、クロル誘導体ではカチオンラジカルから560nmに吸収をもつ過渡分子種Xが、更に、Xから380nmに吸収を示す過渡分子種Yが生成することを明らかにした。クロル誘導体の光毒性が大きいことから、Xが主要な生理活性種である可能性が高いと結論した。
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1997
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ニトロ基をオルト位にもつベンジル化合物は、光照射によりメチレン基の水素原子が可逆的に分子内移動を起こすことにより、フォトクロミズムを示すことが知られている。この研究の目的は、オルト・ニトロベンジル化合物のうちで、水素原子を受容することのできる位置を複数個もつ化合物について、分子内水素移動の機構を明らかにすることである。 2-ニトロエチルベンゼン(NEB)、2-(2'-ニトロベンジル)ピリジン(2-NBP)、4-(2'-ニトロベンジル)ピリジン(4-NBP)2,4-ジニトロエチルベンゼン(DNEB)、2-(2',4'-ジニトロベンジル)ピリジン(α-DNBP)、4-(2',4'-ジニトロベンジル)ピリジン(γ-DNBP)の時間分解ラマンスペクトル及び時間分解紫外・可視吸収スペクトルを溶液中で測定した。これらすべての化合物で、紫外光照射による光化学反応は、最低励起一重項状態S1B>において、ニトロ基がオルト位にあるメチレン基の水素原子を引き抜いてオルト・アシニトロ酸を生成することによりスタートすることがわかった。極性溶媒中ではこのオルト・アシニトロ酸はオルト・アシニトロアニオンとプロトンに解離し、プロトンはプロトン受容能のあるパラ位のニトロ基、2-ピリジル基や4-ピリジル基の窒素原子と結びついて、パラ・アシニトロ酸あるいはN-Hキノイド異性体を生成する。無極性溶媒中ではアシニトロ酸は解離せず、アニオンもN-Hキノイドも生成しない。 NEBとDNEBのニトロ形およびアシニトロ形の異性体およびこれらのアニオンについて、分子軌道計算による構造最適化及び基準振動計算を行った。分子軌道計算にはDFT/B3LYP法を適用し、6-31+G*基底関数を使用した。アシニトロ酸及びそのアニオンの最適化構造は過渡共鳴ラマンスペクトルから予想される構造と良い一致を示した。また、基準振動の計算結果は実測の振動数とよい一致を示した。研究成果の発表(印刷中)Laser Chemistry, Photoinduced Intramolecular Hydrogen Transfer Reaction of Ortho Nitrobenzyl Compounds
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生理活性物質および薬の光化学・時間分解ラマン分光法による研究
1996
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1.クロルプロマジン (CPZ)は精神病治療における重要な薬である。この薬は作用機作および光毒性・光アレルギー性の副作用の機構を明らかにするために、時間分解ラマン分光法およびレーザーフラッシュフォトリシス法のより研究を行い以下のことを明らかにした。 (1)ラジカルカチオンはS1経由の二光子過程で生成する。(2)カチオンラジカルから過渡分子種Xが生成し、Xは更に過渡分子種Yに変化する。(3)Xは光誘起脱塩素化反応により生じたプロマジニルラジカルの可能性が高く、CPZの副作用に関係している可能性がある。 2.ニコチンアミドアデニンダイヌクレオチド(NADH)は補酵素として、生体内の多くの酸化還元反応において重要な働きをしている。NADHの光科学反応を時間分解ラマン分光法およびレーザーフラッシュフォトリシス法により研究し以下のことを明らかにした。 (1)NADHがNAD+に二電子酸化される過程は、これまでハイドライドイオンH-の移動によるとされてきたが、光化学反応では先ず電子移動が起こってラジカルイオンNADH+・が生成し、これがプロトンH+移動を起こしてラジカルNAD・を生成し、更に、電子移動を起こして最終的にNAD+になる。(2)NADH+・はS1経由の二光子イオン化により生成する。3.α-ターチエニル(αT)はマリーゴールドなどの植物中に存在し、蚊の幼生などの生育を阻害する働きをする。αTの光反応を時間分解ラマン分光法およびレーザーフラッシュフォトリシス法により研究し以下のことを明らかにした。(1)ラジカルカチオンは二光子イオン化によりS1経由で生成する。(2)アセトニトリル中ではイオン化エネルギーがメタノール中よりかなり小さく、ポンプ光のパワーが低くても光イオン化が起こる。(3)S1状態ではチオフェン基内のC=C結合はほとんど弱まっていないのに対し、T1状態およびラジカルカチオン状態ではC=C結合が少し弱まっている。(4)T1状態の収率が高く、遅延蛍光が観測される。
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生理活性物質および薬の光化学:時間分解ラマン分光法による研究
1995
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1. ソラーレン(Ps)およびその誘導体の8-メトキシソラーレン(8-MOP),5-メトキシソラーレン(5-MOP)の光化学反応についてレーザーフラッシュフォトリシス法,時間分解ラマン分光法およびab initio分子軌道法を用いて,ナノ秒の時間分解能で以下のことを明らかにした。1)8-MOPの光化学は他のソラーレンとは顕著に異なっている。すなわち,アニオンラジカルの量子収率がPsや5-MOPよりもはるかに大きい。また,アセトニトリル中でカチオンラジカルも生成する。2)水溶液中では光イオン化が起こり,カチオンラジカルと溶媒和電子を生成する。3)アニオンラジカルと励起三重項状態ではピロン環のC=C結合は非常に弱まっている。4)ソラーレンおよび誘導体の最低励起三重状態 3(π,π★)に帰属され,励起はピロン環に強く局在している。5)アニオンラジカルは光化学療法剤における生理活性種ではない。2. フェノチアジン誘導体,特にクロルプロマジンは,精神安定剤として広く用いられている。この薬の光アレルギー性の機構を明らかにするために,ナノ秒の時間分解能で,フェノチアジン(PTZ),クロルフェノチアジン(CPTZ),プロマジン(PZ),クロルプロマジン(CPZ)の吸収スペクトル及びラマンスペクトルを測定し,以下のことを明らかにした。1)カチオンラジカルは最低励起一重項状態を経由して二光子過程で生成する。2)CPZではカチオンラジカルを経由して,過渡分子種X(吸収ピーク580nm)が生成し,Xは更に分子種Y(吸収ピーク380nm)に変化する。XとYの正体は明らかではない。PTZとPZでは生成しないことから,脱塩素反応により生じたものと思われる。3)励起三重項状態およびカチオンラジカルでは基底状態と比べて,C-S結合の二重結合性が増しており,励起が硫黄原子付近に局在していると考えられる。