研究分野
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公法学
2024/12/21 更新
2024/12/21 更新
近時の公物紛争に関する行政法的視点からの総合的研究
研究期間:
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今年度の研究課題の一つである<所有者不明者土地上に公共施設を建設する場合の法的手法>を行政法の観点から検討する課題については、従来からの手法に加えて、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(2018年11月、2019年6月に分割施行)による新たな制度のもとでの取得手法を検討対象に加える必要がでてきた。この円滑法の検討について、(この円滑法の運用の基礎作業となる)同法にもとづいて法務省の委託による戸籍調査を実際に担当している司法書士の方から、その調査の現場で発生している問題の聞き取りをした。この戸籍調査等による長期相続登記等未了土地の解消作業においては、司法書士による戸籍情報の取得に対する自治体の対応方法が不統一で効率の悪いものになっている場合が少なからずあり、これが解消作業を遅延させる原因の一つになっているようである。このような現場の状況の理解も含め、所有者不明土地の問題を、現在進められている相続登記未了問題の解消作業から検討する機会を得たことは大きな収穫であった。また、この円滑法の検討によって、これから進められる円滑法による所有者不明土地の公的取得を法的に検討する複眼的な視座を得ることができたと考える。今年度は、公物の利用をめぐる法的問題として、各地で多発している集会のための公物使用の不許可処分をめぐる紛争を検討することにも多くの研究時間を費やした。この研究では、不許可処分自体の憲法や行政法からの検討とならんで、その紛争後に当事者となった自治体が、紛争をめぐる裁判を基礎に当該公物の利用に関する公物管理条例を改正している事例(世田谷区二線引畦畔事件、金沢市庁舎前広場事件)を対象として、その改正条例の問題点を検討した。2019年(令和元年)度は、私の退職年であることから、昨年度が当初の研究計画(3年計画)の最終年であったが、研究期間の1年の延長を認めてもらった。昨年が当初の計画での最終年であったが、当初の研究計画は、おおむね順調に進展していると考えている。ただし、ドイツ公物法の研究という課題のみは、いまだ達成しておらず、延長を認めて頂いた2019年度の研究期間の最終年で完成させたい。自治体において主として用地取得を担当する職員向けに、土地収用にかかわる基礎知識を解説したパンフレットを作成したが、所有者不明土地問題への関心が高まったことで、公表を留保していた。この所有者不明土地の公的手法の部分をさらに加筆したうえで、このパンフレットを公表をしたいと考えている。ドイツ公物法研究については、近時、新たな日本での研究論文は公表されていないように思われる。このことから、ドイツにおける最新の公物法研究の動向を紹介する研究を公表することを予定している。さらに、1年の延長期間を含めた科研費による4年間の研究成果に、それ以前の現在でも意義をもつと考えられる自己の研究を加えて、近時の公物紛争を行政法の観点から検討した研究報告書を公にしたいと考えている
福島原発事故後の新たな原発安全規制の課題と脱原発をめぐる法律問題
日本学術振興会 科学研究費助成事業
研究期間:
首藤 重幸
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先端科学技術にかかわる法的研究については、科学論における「科学の不確実性」についての現在の理論水準を確認することが不可欠である。この研究成果を得たことで、科学裁判の法廷技術にかかわる問題についても新たな視点を得ることができた。ドイツが脱原発政策決定の理論的基礎とした「残余リスク(人類が理性的にも受忍しなければならないリスク)の再検討」の内容を検討した。ドイツ原発訴訟における司法審査方法についても改めて検討をおこない、日本にとっての大きな示唆を得た。さらに、原発事故の際の住民避難計画については現地調査をおこなった。アジアにおける原発行政法研究者のネットワーク作りで、韓国・台湾を訪問した
経済規制・監督手法の変動と、それによる行政法体系への影響と再構築
日本学術振興会 科学研究費助成事業
研究期間:
首藤 重幸, 岡田 正則, 田村 達久, 杉原 丈史
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先進各国で公益事業の民営化が進められているが、逆に同時に、それに対する行政的経済規制は増大している事実がある。そして、その世界各国での行政的規制方法を分析してみると、規制の公正性の担保と、民営化の進行と意義を維持するために、各国で極めて弾力的な規制手法が採用されていることがわかる。そして、その規制手法の弾力化が、従来の行政法学における硬直的な規制手法の理解に、大きな変革をせまっており、さらに、「経済行政法」という新たな学問領域を生み出す原因となっている
アメリカ環境行政と企業の海外進出にともなう環境行政規制リスクの実証研究
日本学術振興会 科学研究費助成事業
研究期間:
首藤 重幸
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カリフォルニア州に進出した日本企業(牧揚経営)がおこした水質管理法違反の事件を素材にして、次の点を検討した。検討素材とした日本の親会社の基本認識は、子会社を設立する国や州の環境関係法令(本件の場合は、水質管理関係法令)を知らないままに、法律で禁止されている汚染物質を地表に散布し、民事的課徴金と刑事責任を追及されるということのようである。企業の海外進出には多額の投資を必要とし、様々な経営上のリスクが発生することについては十分な研究をして進出するのであろうが、進出場所での日本とは異なる環境法的規制の調査が不十分な場合に、どのような経営責任を追求されることになるかを、この事件は示している。そこから日本企業が海外に進出した際に発生するかも知れない環境汚染をめぐる様々なトラブル(これを環境行政リスクという)に対して、どのように予防的対策を講じるべきかの、日本企業が海外進出するさいの環境行政リスク管理ともいうべきものの必要性と内容が理解されることになる。さらに、上記の諸点の検討と並んで、日本人の役員、アメリカ白人のマネージャー、そしてメキシコ人の現場労働者という組織構成から、これらの間でのコミュニケーションの困難が、それが環境関連法規違反を導いたという事実があり、上記の環境行政リスク管理という観点からは、企業スタッフ間のコミュニケーションという点にも注目せざるを得ない
環境法における市民のイニシアティヴの法制化に関する比較法的研究
科学研究費助成事業(早稲田大学) 科学研究費助成事業(基盤研究(B))
研究期間:
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まず日本の動向については、市民のイニシアチヴを位置づける環境保護関連条例・要綱の資料収集と分析を行い、また市民の運動としての公害裁判が環境政策に与えた影響を分析した。さらに再度岩手県雫石町を調査し、国見スキー場開発、奥産道問題において、地元住民と、都市の自然保護運動の担い手の対応を比較検討し、双方の自然への関わりのあり方と自然保護機能について考察した。
ドイツにおける侵害調整制度の検討を通じて、我が国における侵害調整措置の必要性と、制度化に当たっての、開発事業者・行政・市民それぞれの責任・役割の検討を行った。
また戦後ドイツにおけるエネルギー政策の歴史を、原子力を中心に検討し、エネルギー政策の変更や、安全基準の変更により、操業中の原子力発電所の操業許可を行政庁が取消し、もしくは撤回した場合に発生する法律問題、特に損失補償問題に関する議論を検討した。
次にアメリカについては、市民訴訟条項の適用について最近一見矛盾する判決を下している連邦最高裁の判決論理と、より一般的に判決に現れた「自然観」について検討した。さらに大規模被害を生むような事件で、裁判所での訴訟手続が広く利害関係者の権利・利益を話し合いによって調整するために使われ、包括的な和解が成立した事例(たばこ訴訟)について、和解交渉に加わった市民団体がどのような役割を果たしたかを研究した。
ドイツ原子力法改正の動向と、その行政法理論への影響
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原子炉設置許可の許可基準となるところの、行政により作成された安全基準(指針)は行政規制であり「法規」ではないが、実際には外部効力のある法規としての機能を果たしている。裁判所も、この安全基準に対する審査は極めて抑制的である。今回の研究では、まず、このような安全基準(指針)の法的性格についてのドイツでの行政法における議論や、実務における基準(指針)作成過程を検討したうえで、我が国でも、安全基準(指針)の作成手続きを、その実際の機能にふさわしいものにするべきであるとの提案を行った。以上のような問題の検討過程で、法規ではない行政規制たる基準(指針)が実際には法規たる機能を果たしていることは、もちろん法治主義原理に違背していることなどのことから、我が国の法治主義を歴史的・原理論的に再検討する機会をもつことになった。ついで、エネルギー政策の変更や、安全基準の変更により、操業中の原子力発電所の操業許可を行政庁が取消し、もしくは撤回した場合に発生する法律問題、なかでも損失補償問題を中心に、ドイツでの議論を検討した。この問題は、チェルノブイリ原発事故以来、原発廃止の議論が高まるドイツばかりでなく、我が国においても空想的な問題ではない。さらに、戦後ドイツにおけるエネルギー政策の歴史を、原子力を中心にしながら検討を加えた。これにより、ドイツのエネルギー政策は、その埋蔵資源を含む地理的条件のみでなく、エネルギー政策に関する政党間の対立、連邦政府と州政府の対立、アメリカのエネルギー政策等に決定的に影響を受けていることを析出しえたと考えている。この分析は、我が国のエネルギー政策の歴史を法的に検討する場合にも、重要な分析枠組みを提供してくれるものでもある
2016年
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公共施設の敷地の所有権や借地権は、いかなる場合も登記なくして第三者に対応でき、登記しなくとも公共施設の利用に支障がでることはないとの誤解がある。この誤解によって発生している紛争を紹介し、特定の条件のもとでしか利用に支障がでないということにすぎず、原則として上記の登記を経由すべきことを指摘した。さらに、法定外公共用物の国から市町村への譲与をめぐって様々な問題が発生しているが、この問題が登記に関連して生じている事例をとり上げて検討した。そのほか、公共施設と登記の関係が問題とされる事例で、認可地縁団体が所有する不動産に係る登記の特例や、所有者不明の土地の収用にかかわって生じる登記の問題を検討した。
構造変革に伴う行政領域間交錯と経済行政法理論の新構築のための総合的研究
2009年
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日本における行政改革・規制改革の展開のなかで、行政法学は検討すべき二つの研究課題に直面した。第一は、行政改革・規制改革が、行政権の市民社会への介入の範囲と方法を大きく変化させる内容を有することから、それらは従来の行政法体系や行政法原理の再検討・再構成を強いることにならざるをえないものか否かの検討である。第二は、第一の研究課題の前提的検討作業という性格を有するものでもあるが、個別の経済行政領域ですでに出現している規制手法や規制範囲の変化を正確に把握することである。 このような二つの検討課題は、経済行政領域が広範で多様であるため、個人のみの研究作業で達成することは困難である。そこで、早稲田行政法研究会に参加している研究者のメンバーに研究協力をお願いして、上記の研究課題の検討を進めた。 まず、ドイツにおける経済行政法研究の成果を研究会のメンバーの共通理解としたうえで、ドイツ経済行政法の体系書が採用している構成も参考にしながら、検討項目を抽出・分類して検討を進めた。そして、この研究の成果としてまとめられたのが『経済行政法の理論』(首藤重幸・岡田正則編著)である。これは、わが国ではじめて多数の研究者が参加して作成された経済行政法の論文集であると考えているが、以下のような編別をもつ論文集として構成されている。この編別のもつ体系性自体も、多くの議論を踏まえてのものであり、一つの研究成果であると考えている。 (構成)第一部:経済行政法の基礎理論 第二部:経済行政法における組織法の理論 第三部:経済行政過程論(法的統制の手法論) 第四部:経済行政と権利救済 第五部:経済行政法と税財政・経済理論 (以上の五部を全18論文で構成) 私は、この研究のなかで「経済行政法における情報」という領域を担当し、このテーマを製品の危険表示に関わる問題を素材として、民事的な製造物責任法の観点からではなく、経済行政法の観点から検討した。そして、情報という観点からは、経済行政における規制手法としての「行政指導」に注目すべきであり、経済行政法においては、権力的な行政処分よりも非権力的な行政指導が重要な役割を担うのであり、行政法体系としても行政指導の位置づけを変えるべきとの見解を持つに至った。 さらに、原子力発電政策に関わって、2008年度にイギリスに滞在した研究成果の一つとして、高度科学技術にかかわる政策決定段階での司法統制の手法についての研究をまとめた。
2003年
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ドイツは政策として、原子力発電所の寿命を32年に設定し、その寿命が尽きれば発電を停止することを決定した。そして、新規の原子力発電所は建設しないことも決定したので、近い将来、ドイツでは原子力発電がなくなることになる。しかし、これによっても、最終処分場の建設問題は未解決のまま残されており、これからのドイツにおける原子力発電問題の焦点は、ますます最終処分場問題に移っていくものと考えられる。さらに、原子炉の解体をめぐる国の関与のあり方や、政策によって原子炉を停止させられることになるのであるからとして損失補償をめぐる議論も登場せざるをえないという指摘も出されていた。 このような状況のなかで、ドイツの原子力発電所に対する従来からの法的規制がどのように変化してゆくのか、そして最終処分場に関する現実的な法的規制を、どのように創設してゆくのかの議論の検討をおこなった。 最終処分場問題については、ドイツにおける原発反対運動のリーダー的存在である社会民主党の国会議員から、彼が提案している案に関して、インタビューをする機会をもつことができた。そして、彼が自らの提案する規制を文書化した資料(草案段階)を入手することができたので、それの検討を行った。 上記のような点に関する議論が、現時点では、いまだ明確にドイツ原子力法の改正に結合しているということはいえないとしても、原子力発電の停止に向かって、ドイツ原子力法が、どのような方向に改正されてゆくのかの輪郭は把握することができた。
2000年
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まず、文献研究として、ドイツ原子力行政領域において、指図権が行使された事例の検討をおこなった。それによれば、そもそもドイツ基本法85条に定める指図権の行使は、戦後、実施されることなくきたが、原子力行政をめぐる連邦政府と州政府の対立のなかで、初めて本格的に登場することになったとの事実を確認することができた。カルカーの高速増殖炉SNR-300をめぐる指図権の行使をはじめとして、この権利の行使をめぐる連邦と州の対立は、政治過程としても極めて興味のあるものである。これをめぐる判例は、州には指図にたいする服従義務があるとの立場であるが、指図内容の実施方法に関しては、さらに州政府に裁量が残されている場合があり、その場合には、指図権も行使があっても、すぐに指図内容が実現されるわけではない。2000年5月、ドイツの現地調査において、ライラント・プファルツ州政府の原発担当者から、実際に指図権の行使の実態を聞くことができ、極めて興味ある情報を得ることができた。ラインラント・プファルツ州は、脱原発政策をとる社民党の強い地域であり、現地調査では、指図権問題以外にも有益な知見を得ることができた。 以上のような成果を踏まえて、2001年2月には衆議院の議員会館で、原子力行政に興味のある国会議員に対して、指図権の行使を中心としたドイツ原子力行政の特徴をレクチャーする機会を得た(内容は、現在、テープおこし・校正を終了して製作中)。さらに、詳しい研究成果を作成中であり、2001年の9月には成果を公表できる予定である。
身分証明書法の機能と法的問題―ドイツ身分証明書法の検討を中心として―
1998年
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ドイツ身分証明書法は戦前から存在(1937年制定)したが、その運用実態は明確にされていない。そして、第二次大戦後の占領軍は、主として軍事政府職員の安全を守る目的から身分証明書の発行と所持を義務づけた。そして、その後に現在のドイツ身分証明書法が成立することになる。 この身分証明行政は、他の多くの行政領域と同じく連邦の行政部門であるが、実際の運用は各ラントが実施することから、各ラントも実施のための身分証明書法を制定している。17歳以上の物に所持と一定の場合の提示義務を求める身分証明書法は、原則として10年ごとに更新することも定めている。 身分証明書の機能は、当初は同一人確認ということであったが、最近は大きく機能が変化していることが指摘されている。すなわち、ヨーロッパ圏でのドイツ人の移動の増大に応じて、国境を越えるさいの証明書、さらには国外(ヨーロッパ)での身元証明として機能している。 本研究において当初に設定した、この身分証明書の番号が納税者番号として機能しているのではないかとの仮説は、検討した文献の範囲では証明することができなかった。しかし、その後に成立したデーター保護法との体系的関連も含め、さらに、この点は追究していきたい。
1996年
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1994年、ドイツ原子力法の7回目の改正がおこなわれたが、そこでは改正が検討された多くの項目のうちの一部が実現されたにすぎない。改正の検討対象とされた項目は、すべて今日のドイツ原子力行政において激しく争われている問題であることから、改正の検討対象になった項目をすべてで検討することによって、ドイツ原子力行政、原子力行政法をめぐる現在の理論状況をより正確に把握することができる。今年度の特定課題研究助成においては、認可の時点では認識されていなかった危険が事後的に認識されるところとなり、核技術施設に対する認可を安全性確保の観点から認可を撤回するというような場合に発生する損失補償問題を中心的に検討した。とくに原子力法18条2項の損失補償義務が免除される場合の要件の理解については対立があり、その対立の状況の整理・分析に力点を置いた。 さらに、ドイツ原子力行政や原子力法の現状を正確に分析するための付随的な準備作業として、戦後ドイツのエネルギー政策の展開と、そのなかで原子力エネルギーがどのような位置付けをされてきたかの検討を行った。この検討では、ドイツにおいてもエネルギー政策の方向を決定する中心的位置を、常に原子力発電(所)が占めてきたことが確認された。さらに、社会民主党(SPD)とキリスト教民主同盟(CDU)が原子力政策について正反対の立場を採っていることから、原子力エネルギー問題が政治的性格を帯び、それが原子力法の運用にも影響を与えていることを析出した。 なお、今回の研究においてドイツ原子力法における「危険概念」にも言及したが、さらなる明確化の必要性を痛感し、今回の研究を踏まえて将来の研究課題としたい。
ドイツ原子力改正の動向と我が国への影響-行政法学の観点からの検討-
1995年
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1994年,ドイツ原子力法は7回目の法改正を行い,それまで使用済み核燃料の再処理を義務付けていたものを,再処理と直接処分の二つの可能性を同等のものとして認めた。実際に改正された事項はわずかであったが,法改正の検討課題としては,かなり広く根本的な諸問題が議論された。今回の研究は,この改正の課題として検討された事項をすべて紹介し,その問題点を析出しようとするものである。 今回の研究の第一段階として,まず,原子力発電所の許可について決定的な役割を果たす安全審査基準の法的性格と,その安全審査基準を策定する政府と州の委員会の構成と役割を検討した。 ドイツでの今回の原子力法改正の課題の一つに,原子力行政における助言(諸問)委員会の法定化というものがあった。すなわち,このような委員会の運営や委員構成の仕方,さらには答申の扱いや拘束力などを法律で決めるべきとするものである。この議論の基礎には,もちろん安全審査基準(ほとんどは行政規則としての性格)の重要性と,その基準を実質的に作成している委員会の重要性についての統一理解がある。 次いで,ドイツの原子力発電所に関するウィール判決は,本来は裁判所や国民を拘束する力のない非法規たる行政規則(安全審査基準)に,結果的に法的拘束力を認める判決をしたが,この意味での行政規則の法規化現象をめぐるドイツ行政法学の議論を検討した。 この行政規則の法規化現象を正当化する根拠を与えるものが,(1)当該行政規則の作成過程への議会の関与,国民参加,反対意見の反映,公正な委員会の委員構成という点と,(2)憲法は高度の専門科学技術知識を必要とする基準作成権限を行政に配分しており,裁判所はその基準を審査する権限を原則として有していない,という議論である。最後に,これらの議論を批判的に考察した。
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