Internal Special Research Projects
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2003
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企業経営者とステークホルダー間には,一般的に,企業情報に関する非対称性が存在する.その情報非対称性の低減に会計報告が機能することで,会計ディスクロージャーが制度化されている.一方,会計情報の作成ルールや報告方法は複数ある場合が多く,その選択は経営者に委ねるのが一般的である.このような状況の下で,企業経営者は,自己の効用を高める会計方法を選択・変更するインセンティブをもつ. 本研究では,エイジェンシー理論にもとづく経営者の会計方針選択行動について理論研究を行ない,実証分析のための仮説――(1)報酬契約仮説:期待報酬を最大にするような会計変更を行う,(2)負債契約仮説:負債契約条項を回避すべく会計変更を行う,(3)規模/政治コスト仮説:政治的コストを下げるような会計変更を行う――を提示した.また,経営者の会計変更に対する資本市場の評価については,(1)無効果仮説:投資家が合理的で,市場が効率的ならば,キャッシュフローに関連しない会計変更は価格形成に影響しない,(2)機械的反応仮説:投資家が利益数値の水準や変化に機械的に反応する,(3)シグナリング仮説:経営者は会計方針の変更を通じて,自身の情報を投資家にシグナルする,があげられる. 実証分析のためのデータベースは,1978年から2002年までの東京証券取引所の第1部上場の製造業の企業データで構築した. 発生主義会計のもとでは,営業キャッシュフロー(CFO)にアクルーアル(accruals)を加えて会計利益が測定され,アクルーアルは短期・長期アクルーアルに区分できる.経営者の会計変更行動を捉えるためには,アクルーアルのうち裁量的アクルーアルを計測する必要があるが,その計測モデルとして,(1)Jonesモデル,(2)修正Jonesモデル,(3)Jones-CFモデルおよび(4)会計プロセス・モデルが提案されている. 本研究では,まず,会計利益の構成要素(CFO,短期アクルーアル,長期アクルーアル)の自己系列相関や構成項目間の同時点と異時点の相関分析を行い,長期アクルーアルに高い系列相関があることが確認された.また,裁量的アクルーアルの計測モデルを開発に際し,日本の企業間信用や商慣習を考慮したモデル(会計プロセス・モデル)を開発した.会計プロセス・モデルの説明力は,Jonesモデルや修正Jonesモデルよりは高いが,Jones-CFモデルとは同程度であった.