グレッグ・ドボルザークは早稲田大学国際学術院(国際コミュニケーション研究科・国際教養学部兼任)の専任教授で、太平洋・アジアにおける歴史学、カルチュラル・スタディーズ、アート研究、ジェンダー研究を専門とする。マーシャル諸島共和国、日本、米国、オーストラリアのあいだで育ち、学び、働いた経験を背景に、日本とアメリカのポストコロニアルな歴史がオセアニアに及ぼした影響を研究しており、特に大衆文化におけるアート、ジェンダー、軍事化の環太平洋的交錯に焦点を当てている。1996年にラトガース大学で東アジア研究(日本近現代文学)および心理学の学士号を取得。2002年にハワイ大学大学院で太平洋諸島研究の修士号(批判的文化研究のサーティフィケート取得)、2008年にオーストラリア国立大学で博士号(太平洋諸島史専攻)を取得した。
学術誌『The Contemporary Pacific』『Journal of Pacific History』『Critical Ethnic Studies』『American Quarterly』などに査読論文を発表するほか、『ジャパンタイムズ』、E-Flux Journal、国際文化誌『COLORS』、『Tokyo Totem』などにも寄稿している。複数の学術論集に章を執筆しており、単著『Coral and Concrete: Remembering Kwajalein Atoll between Japan, America, and the Marshall Islands』(ハワイ大学出版会、2018年/2020年ペーパーバック版)は広く評価を得ている。テレビ番組にコメンテーターとして出演するほか、オセアニアにおける抵抗とアートに関する講演も行っている。
また、草の根ネットワーク「project35(Project Sango)」を創設し、日本における太平洋諸島地域の認知向上に取り組んでいる。ミクロネシアをはじめ、日本や米国の植民地主義の影響を大きく受けた地域のアーティストと協働し、調査やキュレーションを進めてきた。2017年にはホノルル・ビエンナーレのキュレーター・アドバイザリー・ボード主要メンバーを務め、2019年には山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別プログラム「AM/NESIA: Forgotten ‘Archipelagos’ of Oceania」を企画・統括。同年、フィリピンのベラスアルテス財団にてキュレーション・レジデンスを行った。
2019–2022年度の科研費(基盤研究C)では、オセアニアの先住民アーティストがグローバルなアートチャネルを通じていかにレジリエンスや脱植民地化を実践するかを研究し、その成果に基づき、オーストラリア・クイーンズランド州立美術館で開催された第10回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2021–2022)において「Air Canoe」展を共同キュレーションした。続く2023–2025年度の科研費(基盤研究C)では、「Collective De/Fence」と題した研究プロジェクトを実施。太平洋諸島や他の先住民の若者が、アートや文化実践を通じて戦争、核の記憶、気候危機に立ち向かい、国境を越えるトランス・インディジナスなネットワークを構築する姿を明らかにし、それらをサバイヴァンス(survivance)と越境的な実践として位置づけている。
近年の主要業績には、『The Cambridge History of the Pacific Ocean, Part 2』(2022年)、第24回シドニー・ビエンナーレ出版物『Ten Thousand Suns』(2024年)、丸善出版『オセアニア文化事典』(2024年、2章執筆)、論集『Social Properties of Concrete』(2025年)への寄稿などがある。2024–2025年のサバティカル期間中には、バーゼル芸術デザイン大学およびハワイ大学と研究連携し、アートを通じた「レジリエンスの身体的実践」に関する調査を進めた。現在は、早稲田大学において「レジリエンス・スタディーズ」の新しい研究拠点を立ち上げている。
早稲田大学では、太平洋諸島研究を基盤とした学部講義(「Transoceania 1:帝国・戦争・グローバリゼーションに対する太平洋の視点」「Transoceania 2:21世紀世界の太平洋」)を毎年開講。春学期にはジェンダー研究の中核科目「文化とアイデンティティ」を担当し、上級セミナーではカルチュラル・スタディーズやフェミニスト的自己省察のアプローチを扱う。大学院レベルでは博士・修士課程の学生を幅広く指導し、文化研究スタディープランのコーディネートも行っている。2020年には革新的な教育手法が評価され、早稲田大学ティーチング・アワードを受賞した。