Updated on 2024/04/19

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KOBAYASHI, Satsuki
 
Affiliation
Affiliated organization, Waseda University Senior High School
Job title
Teacher (Affiliated Senior High School)
 

Syllabus

 

Sub-affiliation

  • Affiliated organization   Global Education Center

Internal Special Research Projects

  • 香港における黄谷柳『蝦球傳』の再受容について -小林多喜二『蟹工船』との比較から-

    2009  

     View Summary

    小林多喜二の『蟹工船』が80年の時を経て、格差社会に生きる現代の若者の間でブームを巻き起こしたが、同時期の香港でも、長らく絶版となっていた黄谷柳の『蝦球傳』が発表から60年の時を経て2006年に再版された。『蟹工船』と同じくプロレタリア文学といわれる『蝦球傳』が現在の香港で再び注目された要因を考察した。 『蝦球傳』が発表から60年を経た現在に至って多くの読者をひきつける要素として、香港の土地や風習が詳細に描かれ、特に香港特有の水上生活者の様子がいきいきと描写されていることが挙げられるが、これが、1997年の返還を機に文化現象としておこった回帰・郷愁ブームと重なり、作品の中に見られるノスタルジーが読者を獲得した要因と考えられる。また、当時の文学作品としては珍しく広東語の語彙が多用されていることも大きな要因である。1980年代半ばから香港の文学を見直す動きが起こり、中国の作家によって執筆された規範とされる「高雅文学」に対して「消閑文学」という名称でひとまとめにされ、周縁へと追いやられてきた香港の文学を再評価し、規範にとらわれることなく自分たちのことばで自分たちのことを語るという流れが、『蝦球傳』を再評価する動きとなったと考えられる。 社会的背景からも考察し、過去25年間の香港の失業率、平均月収を調べた結果、2000年に入ってからの失業率の上昇と平均月収の下降が著しく、そのような現代の香港の若者をとりまく苦境が、主人公・蝦球の悲惨な暮らしや労働搾取などと重なり、共感をよんだと考えられる。これは『蟹工船』再ブームにおいても同様に見られる要因である。さらには、香港返還十周年という時期的な要素が大きく働き、作品後半に多く見られる、主人公・蝦球を苦境から救い出す共産党への賛美が、再版へと結びつけたのではないかと考察した。